第6話 ミーシャの事情
街を歩き、獲物を探す。
と言いたいが、正直、俺自身はあまり性欲がない。
全くない訳ではないけれど、ほぼないに等しい。
一度だけ自分を300%に変化させてみたけど、あれはとんでもなかった。
すぐに『リセット』して元通りの52%に戻している。
つまり、俺は平均値の下限でもある60%を下回るくらいには性欲が弱い。
なのにどうして俺にこんなスキルを授けたのか、神様に是非とも聞いてみたいね。
…………もし神様がいるなら、このスキル効くのかな?
王都というだけあって、この街は至る所に繋がっている道がちゃんと舗装されていて、歩いてて苦にならない。
クレイ達と一緒に過ごしていたスラム街は道も悪く、雰囲気も暗いし、毎日犯罪が起こるような場所だった。
そんな中から集めた仲間だったはずなのにどうしてこうなったのか…………いや、こちらは裏切られたのだ。心配してどうする。
特にこれといった目的はなく、スキルで釣れそうな人はいないかと歩いていると、視線の向こうにどこかで見た女性の姿が見えた。
「ミーシャさん?」
「あっ! ベリアルさん」
彼女は娼婦館で働いている女性で、見た目はまだ幼く、俺と大して歳も離れていないと思う。
短く整えた茶髪と小さな顔が相まって、非常に愛くるしい。
「こんな場所で何してるんですか?」
「え、えっと…………」
困ったようにぎこちない笑顔を見せる。
彼女が見ていた視線の先を見ると、少しボロい家だ。
その時。
家の扉が乱暴に開くと、中から少しキツイ目の女が出て来る。
「ミーシャ! 今日の稼ぎを早く渡しなさい!」
出るや否やミーシャさんそう告げる女。
「ちょっと待ってくれ。どうしてミーシャさんがあんたに稼ぎを渡さなきゃならないんだ」
「は? 男でも作ったのか? ミーシャ」
「ち、違うの! この方はお店の同僚だよ! お母さん」
はあ!? お母さん!?
「ふう~ん。こんな冴えない男があの店に?」
もしかして、ミーシャさんがあそこで働いているのって…………。
女は俺に構わず、ミーシャさんが手に持っていた袋を奪うように受け取り、中を確認して笑みを浮かべる。
「おい! 娘が頑張って稼いだお金だろう!」
「ふん! 他人は黙らっしゃい! うちの子に何をさせようが母の私の自由でしょう!」
「そんなはずあるかよ!」
「ベリアルさん! 私は大丈夫ですから……お母さんを怒らないでください」
「ふん!」と言い残しながら家に戻って行く女を、俺はただ空しく見る事しか出来なかった。
少し寂しそうに彼女の後ろ姿を見るミーシャさんの顔が、いつぞやの裏切られた自分と重なる。
「ミーシャさん…………少し話しませんか?」
「えっ? わ、私なんかでいいんですか?」
「はい」
ニコッと笑う彼女の笑顔は、俺が今まで出会ったどんな女性よりも素敵だった。
◇
「すいません……俺も給料を全部渡したものでして」
「ふふふっ、大丈夫ですよ。同じく給料を全部取られた同士ですね!」
「そうですね」
少し持っていた小銭で、飲み物を買い、公園のベンチに座り込む。
彼女から少し離れて座ったが、気が付いたら少し近くなっている。
「毎日給料を全部渡しているんですか?」
娼婦は基本的に働いた日にその日当を貰う仕組みだ。
「はい…………私はそのためにあそこで働いているのですから」
「っ…………」
ろくでもない親だ。今すぐにでも殴り飛ばしてやりたい。
「あの……ベリアルさん? ありがとうございます」
「どうしてミーシャさんが俺に感謝を?」
「私なんかの事で怒ってくれてありがとうございます。私…………こんな風に誰かに思われた事がないんです」
「…………」
「だから、この飲み物も凄く嬉しいんです」
俺に人を見る目がないのは確かだ。だが……彼女の本心くらい汲み取るのは簡単だ。
でも俺に何が出来るというのか…………。
その時、とある事が頭をよぎる。
「ミーシャさん。お母さんの事、もう少し教えて貰ってもいいですか?」
「お母さんの事?」
「ええ。お父さんは家の中に?」
「えっと、お父さんはいないんです。生まれた時からいないとお母さんが言ってました」
「なるほど。そういえば、お金を貰ったお母さんはどこに使うのですか?」
「多分、また飲みに行くのかなと思います」
「お酒が好きなんですね?」
「そうですね。お金があれば毎日飲みに行く感じなので……」
「分かりました。ありがとうございます」
少なくとも、ろくでもない親なのは確定したが、これで一つ出来る事が見つかった。
それから少しの間、ミーシャさんとの談笑を楽しんだ。
本当に眩しいくらい笑顔が素敵な彼女は、今日も仕事前に眠りに娼婦館に帰って行った。
俺は元々眠気をあまり感じないので、殆ど眠らない。
早速、周囲の酒場を周り、
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