第82話 第二回大阪会議㈤ 閉会

一応のまとまりを見せた大阪城の広間。


郡は席を離れ淀君の元へ。


広間では長束正家が誓詞を書き始めた。


簡単に言えば以下の通りだ。


㈠豊臣家への忠義をもとに領国経営をしていく

㈡諸大名の名代として置かれた者の意見は主君の意向そのものとする

🉁私闘を禁ずる

㈣農業・商業の奨励


等おおまかな物は津久見が先程話した内容であった。


「では、ここに皆さまご署名を。」


長束正家ができたての誓詞を掲げて言う。


「あ、ちょっと宜しいか?」


口を挟んだのは立花宗茂であった。


齢30半ばの偉丈夫は津久見に向かって話した。


「その名代の件でござるが、それは大名家の主人が行っても構わぬのか?」


「はい。」


「では、集まった際、中には大名もいれば、筆頭家臣もいれば、もしかしたらただの侍大将もいるかもしれんという事でござるか?」


「…。確かにそうですね。」


「だったら、もう一筆加えて頂きたい。」


「え?何とですか?」


「『参加した名代に身分の上下は、石高の多い少ないは関係なく、忌憚なく意見を申すよう。』と。」


「…。素晴らしい!!そうですね!!そうしましょう!」


と、津久見は長束正家の方を見る。


長束は掲げた誓詞をまた台に置き筆を取り、空いた余白に今の旨を書き上げた。


「これで良いか治部。」


と、正家は誓詞を津久見に渡す。


津久見は受け取ると一読する。


何て書いてあるかは難しく読みづらかったが、㈠~㈣と分かりやすい表現で書かれているのが分かった。


そして先程の宗茂の提案も端にしっかりと書かれているのが読めた。


「大丈夫です。ありがとうございます!」


「…。」


正家は人が変わった様な三成に困惑した。


「では皆さん私が持って回りますのでご署名をお願いします。あ、順番とか別に関係無いですからね。」


と、言うと毛利輝元の前に座った。


そこに慌てて正家が硯と筆の乗った小机を用意する。


「輝元さん。お願いします。」


「うむ。」


輝元は正家が用意した小机の上に敷かれた誓詞を一読すると署名した。


書き終えた輝元は


「治部よ。色々と迷惑をかけたな。」


「いえいえ。輝元さん。ありがとうございます。」


宇喜多秀家・吉川広家・小早川秀秋・島津義弘・長宗我部盛親・加藤清正・立花宗茂と順番に署名をもらっていく。


「では、大谷さんと秀信さんの分はこのあと私の方から説明した上もらってきますね。あとは我々奉行衆も署名をっと。」


と、言うと津久見は筆を取る。


「石田三成」


明らかに下手くそな字だが丁寧に書いた。


「はい、長盛さん。」


と誓詞を増田長盛に渡す。


増田長盛・長束正家・前田玄以が署名を終えたその時、郡が広間に戻って来た。


「あ、郡様。今ちょうど誓詞の署名が終わった所です。」


と、前田玄以は誓詞を郡に差し出す。


「おお。そうですか。ありがとうございます。」


と、誓詞を受け取ると一読。


「お見事でござる。これで秀頼様も淀様もご安心なされるでしょう。」


と、大切そうに誓詞を脇の小姓に渡した。


「ところで治部殿。」


郡は津久見を呼んだ。


「はい。」


「人質の件、淀様にお話しした所…。」


「いかがでしたか?」


「快諾なされた。」


「本当ですか!!??」


「ああ。少し迷いはあったようだが、手前の方から会議の顛末の説明でご納得いただけましたぞ。」


「そうですか。ありがとうございます。」


「たまのお話相手でもあった奥方衆でございますので、少し寂しそうではありましたがな。」


「そうですか…。淀様も我々をしてくださったと…。」


津久見は諸将の方へ振り向く。


「皆さん、人質は無しです。」


おお。


会場がどよめく。


「あと、名代の件ですが、私が一回目の家康さんとの会談までに決めてください。重大な役目なのでよくよく考えた上で選出してくだい。」


津久見はそう言うと深くお辞儀をする。


「????????」


三成の態度に皆驚いた様子だが少しづつ慣れてきてはいた。


そこに長束正家が言った。


「で、でわ、今回の会議はこれにて終了と致します。治部の言う通り、名代の決定は奉行衆にご報告頂く形といたしまする。郡様。」


と、郡へ振る。


「はい。皆さまご苦労様でした。途中色々ありましたが、有意義な時間で最終的には良い形で終われましたな。改めて感謝申し上げまする。」


と、郡は頭を下げる。


「では、これにて閉~会~。」


長束正家が締める。


_______________________________


一人二人と広間を去って行く中、左近と喜内が津久見の元にやってきた。


「殿。首尾上場で。」


左近が言う。


「うん、なんとかね。」


「いや、でもこれからまた色々と忙しくなってきますな。」


喜内が目を輝かせて言う。


「ふ~。本当ですよ。色々ありすぎですね。」


そこに小西行長がやってきた。


「治部~ご苦労様。大変やったな。」


「あ、行長さん。」


「まあ、あっこでいきなし肥後領土返還を、ばこん!っと言うからな、驚いたわ。」


「いや、多分あれが良い刺激になりましたよ。あ、所で行長さん…。」


「なんや?」


「堺会合衆の説得の妙案って何ですか?」


「ん?妙案?ああ、あれか、あれはでまかせや。」


「でまかせ!!!???」


「まああっこでああでも言わんと収まらん思うてな。」


「はあ。」


「まあ、一度乗った船や。とことん付いて行くで。」


「…。泥船じゃないといいですけどね…。」


「大丈夫やろ。知らんけど。」


「はあ。まあ助かりましたよ。」


二人は歩き出した。


津久見達は広間の廊下の窓辺に立った。


「堺か…。」


行長が窓からの景色を見ながら言う。


「あのおっちゃんかなあ。」


「あのおっちゃん?」


「ああ。一人えげついのおんねん。そのおっちゃんが鍵かな思うてねん。知らんけど。」


「そんな人がいるんですね。」


津久見も窓辺から景色を覗く。


外は夕焼け色に染まっていた。


「まあでも何か生かされてる様なこの命や。何とかなるやろ。知らんけど」


「そうですね。ここまでもどうにかなってきましたからね…。」


二人はその後喋る事無く暫く夕陽を見ていた。


こうして波乱の第二回大坂会議は閉会したのであった。


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