第64話 大坂会議㈡ 説明

貫くような会場の視線の中、津久見は立ち上がり口を開いた。


「はい。では経緯を説明させて頂きます。」


と会場を見回しながら言う。


「まず、先の戦の本質をご説明させて頂きます。相手は調略・策謀に長けたあの家康。黒田長政殿等を使いながら巧みに、豊臣恩顧の諸大名を味方に引き込みました。」


皆黙って聞いている。


「そんな中、大垣城でもお話ししましたが、直前での裏切りがございました。朽木・脇坂隊でございます。それにお名前は伏せさせて頂きますが、ここにご列席頂いてる方々の中にも東軍と内通している方々が何人かいらっしゃいました。」


会場がどよめく。


特に後ろに座っている家臣団は何も知らない者も多いので殊更ざわついている。


「しかし、私は各陣を周りその真意を確かめそのお心を変えることが少なからずできました。故に、この戦は負ける戦から、勝てる戦になりつつありました。」


「…。」


裏切りを予定していた小早川や、吉川は下を向いて聞いている。


そこに郡が聞いた。


「では何故戦を止めたのでございますか?」


的を得た質問である。


ここからは島森を守る為の理由付けが必要であった。


「しかし、相手は東海一の弓取り、徳川家康です。野戦での戦を仕掛けた以上、何をしてくるか分かりません。それに…。」


津久見は考えるハッタリでも良いから何か口実を作らなければ…。


「それに、徳川秀忠率いる3万の軍勢が中山道にて、上田で抵抗する真田氏を破り合流したらどうなりますか?」


会場はまたざわつく。


確かに秀忠率いる3万は史実通り間に合わなかった、がしかし、それが合流すれば…。


数的にも勝ち目は無い。


(よしいける)


津久見はそう思い続けた。


「そうなると形勢はまたもや逆転する可能性は大きかったと言わざる得ません。ですので…。」


「和議を強行したと。」


毛利輝元が口を割った。


「はい。いかにも。それと…。」


「それと?」


「もう辞めにしめせんか?。人が人を殺す。昨日の友だった人を殺す。そんな野蛮な事。」


「野蛮??戦が野蛮と申すか???」


(あ、言葉を間違えたか?この時代の価値観とは少しズレたか…。)


「言葉が過ぎました。すみません!」


津久見は体を90度に曲げ謝った。


場内はもっと騒ついた。


「あ、あれが治部か???」


変わり果てた三成の行動に皆んな驚いていた。


「でもですね。」


津久見は続けた。


「ここにいる皆さん1人残らず、それに皆さんの家臣・足軽隊・荷台隊、全員に母がいて、家族がいて愛する人がいるんです。私にもいます。そこに座っている小姓の皆様にもいるはずです。」


津久見は郡の横に控えている小姓を見て言った。


小姓は急な三成の発言に驚いている。


津久見は続ける。


「その周りの人を悲しませない為にももう戦をしない世の中を作る。これは内府殿も一緒の考えでございます。」


会場は静寂に包まれた。今津久見が言った倫理観なる物を一旦考えている様であった。

そこに宇喜多秀家が割って入った。


「我らは所領を持っている。そこに民百姓がいる。がそれ以上に武士も多く抱えておる。槍や刀だけで生きて来た人間はどうしたらよい?」


会場はさらに静まり返る。


ここにいる多くの武将の元には多くの家来がいる。


槍自慢・力自慢で名を馳せた者を多く召し抱えている。


その家来たちの事を考えている様子であった。


津久見はその空気を一瞬で感じ取った。


(そうだ。言う通りだ。…。でもそこまでは考え切れてない…。でもここで止まったら付け込まれる…。)


「まだ考え切れてません!!!だから皆さんと一緒に考えたいんです!」


懇願する様に津久見は率直に言った。


会場は呆然としている。


「だから一旦東軍と西軍、もう争わぬ様天竜川を境に互いに侵略せず、の約定を勝手ながらもさせて頂いた次第でこまざいます。」


津久見は押し切るように言い放った。



会場は尚も静まる。そんな中、郡が聞いた。


「それは豊臣家を思っての所行でござるか?治部殿。」


「はい。まさしく。亡き太閤殿下の思いを秀頼様が継ぎ、太平の世を作っていく。それだけでございます。」


「しかし所領はどうする?今後はどうするのじゃ?」


「はい。その為にも豊臣家の直轄領を各大名に分け与えます。」


「何??それは…」


郡は困惑した顔で言う。


当然会場は騒つく。


「これからの時代は農業、商業、異国との交流で国を豊かにして行こうと考えております。その第一歩として、小西様が肥後20万石を返上し、堺統治の任に当たって頂こうと考えておりまする。」


会場が今日一番ざわつく。


(どうだ。これで収まるか!!???)


津久見は期待を込めてそう思った。


その時であった。


「ふふふふふ。ははははははははははは。」


大きな甲高い笑い声が会場のざわめきをかき消した。


笑い声の主の方を見ると一人の坊主が下を向きながら大きな声で笑っている。


坊主は顔を上げた。真顔である。


だが大きな声で笑っている。


(な、なんだこいつ!!!!)


津久見は驚きその男を凝視した。


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