第63話 大坂会議㈠ 違和感

「ささ、殿。」


左近の手引きで津久見は大阪城内の一番の広間の奥の襖へ繋がる廊下へ連れて行く。


「私はここで。」


と、左近はそう言うと足を止める。


「あれ左近ちゃんは?」


「私らのような家臣は後ろの方で列席するだけでございます。」


「そっか…。ちょっと心配だな…。」


「殿。もう後には引けませぬ。頑張ってくださいませ。」


左近はバンと津久見の背中を叩く。


「痛っ!ったく扱いが雑なんだから…。」


と、津久見は広間の奥の襖に手をかけた。


その瞬間に感じる緊張感。


(さあ、こっからだ…。)


津久見はゆっくりと襖を開いた。


そこには上座に対し八の字に3人が座っている。


瞬時に分かった。


(奉行の席だ。)


津久見は八の字の開いている席に座る。


隣にいるのは増田長盛だ。


ふと横を見ると八の字に並行し対面する様に男たちが5.6人並び座っている。


石高の高い大名家だとすぐに分かった。


その後ろには数十人の武将たちが上座に向かって座っている。


(緊張するな…。)


津久見は少し圧倒されつつあったが、自己を保持するのに専念した。


すると上座の襖が開き、一人の男が入って来た。


「いや、皆さま。本日はご苦労様でございます。」


と、低く落ち着いた声で言うと上座に座った。


そこへ増田長盛が言う。


こおり様、全員出席でございます。…。一人呼んでおらん者も混じっていますが…。」


と、加藤清正の方をチラッと見る。


「む!!!」


増田を睨み返すと、増田は怯むように、


「で、で、では郡様。本日の大坂会議始めてまいります。」


「はい。お願いします。」


郡は言う。


津久見は思った。


(ダンディだな…)


と、見惚れていると増田は話し始めた。


「では、まず本会議の出席者の紹介でございます。皆さま顔見知りだとは思いますが

…。まずはこちらから。」


と、増田は手で津久見達と逆側の男を手で指し紹介し始めた。


「毛利輝元様  安芸101万石

 宇喜多秀家様 備前57万石

 吉川広家様  備中14万石

 小早川秀秋様 筑前36万石

 島津義弘様  薩摩56万石」


と、紹介していく。


津久見はその時点で違和感を感じていた。


(何故皆の所領も一緒に紹介するのか…)


「最後に 毛利家家臣 安国寺恵瓊様。」


(!!!!一人だけ家臣でここに座っているだと!!!)


後ろの諸将たちもざわめく。


「え、ごほん。」


と、増田は咳ばらいをし場内を鎮めると


「続きましてこちら側

 小西行長様  肥後20万石

 大谷吉継様  敦賀5万石…」

 

 津久見の違和感は一層増す。

  

 (この知行地の発表…。)

 

 増田は続ける。


「織田秀信様 岐阜13万石

 立花宗茂様 筑後13万石

 長宗我部盛親様 土佐20万石


 …。

 

 加藤清正様 肥後25万石。

 

 以上でございます。」


増田は飛び入り参加の清正を細目で見ながら言った。


「何が悪い!!この大事にわしに参加するなとでも言いたいのか!!??」


清正は増田を睨みつけ怒鳴り、さらに続ける。


「それに知行地をわざわざ言う必要があるのか!!まるでそちらに座ってる面々が偉い様に見えてきよるわい。」


(そうなんです!!清正さん!その通りなんです)


津久見は心で思ったが声には出さなかった。


増田は清正の圧に押されながら


「いや、これは、その、ある方が…。」


とごもる。


「誰じゃ!!そんな入れ知恵したのは!!!」


「う、え、あ~。」


増田は完全に威に負けていた。


そんな増田を助けたのは意外な男であった。


清正の横に座る、これまた清正に負けじ劣らじの偉丈夫・立花宗茂であった。


「まあ、良いではないですか。そこへの違和感は誰しもが感じておりまする。そんな

小細工など放っておいて、本題に入りましょう。そこに付けこめば付けこむほど相手の思い通りかもしれませんぞ。」


と、清正をなだめると、増田に向かって


「長盛殿どうぞお進め下さい。郡様もいらっしゃいますので。」


と、郡に目をやりながら言う。


「は、は~…。」


意外な助け船に増田は落ち着きを取り戻し、郡の方を見ながら


「以上、我々奉行衆4名を加え計15名が本会議の発言権を持つ者でございます。では。」


と、増田は自分の役目を早々に終えたそうに郡に議題を振った。


話を振られた郡はゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。


「まあ主計頭かずえのかみ殿(清正の事)。立花殿の言う通り、一旦は気にせず進めようではありませんか。」


と、優しく清正に言う。


清正は不服顔ふふくつらをしながら下を見た。


そんな清正を見て郡は続ける。


「皆様方、本日はご列席まことにかたじけのうござる。しかし、先の一戦より話が変わり果ててござるので、我豊臣家としての今後を担う大事な会議とどうかお心がけください。」


話し方は丁寧だが、その裏には今後の豊臣家の行く末を案じる緊迫感が伝わって来た。


「それでは、まず。この会議の本題に入る前に治部殿にお聞きしたい。」


郡は三成に視線をやる。


津久見はどドキッとしながら郡を見つめる。


「何故戦を止めましたか。内府殿との和議の経緯と今後のお考えをどうか諸侯へご説明くださいませ。」


広間の視線が全て自分に注がれているのが津久見はは分かった。


津久見はゆっくりと話し出した。


完 

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