第58話 堺見物
津久見と左近は大館の屋敷を後にすると、清正・喜内・平岡と合流した。
「お三方、お待たせしました。」
笑顔で津久見は二人に言う。
そこへ、平岡が馬を引いた。
が、津久見は頭を横に振り言った。
「少し歩きましょう。堺の街をちょっと歩いてみたいんで。」
と、スタスタと歩き始めてしまった。
残された4人は慌てて後を追う。
堺。
そこはあまりにも津久見が今まで見て来た街並みと一線を画していた。
活気に溢れている。一人一人の顔を見ると、喜々としている。
時折現れる外国人に、平岡は驚いたりしている。
「凄い街だな…。」
津久見は言う。幾度かの戦火にあったとはいえ、その都度復興し賑わいを維持している。
高く積まれた商品の叩き売り、包丁の実践販売。何でも揃いそうだ。
(ここはまるで異世界だな)
津久見は歩きながらそう思った。大阪を北東に抑え、貿易の主軸ともいえる港がある。
(そりゃあ発展するか…。)
軒を連ねる店を見ながら
(そう言えば…)
と、津久見は現実世界での堺の街を思い出した。
今でこそ全国チェーン展開した企業に就職した友人が、転勤で堺に配転された話だが、そこでの商売の難しさを実感したという。
「お兄ちゃん。堺で商売するんやったら、もっと上手くやらなあかんで」
「堺でやるんは早かったんとちゃうか」
今でこそこの企業は地域から愛される店舗として成功しているが、知名度もそこまでなかったこの企業は当初は相当難儀したとその友人が言っていた。
(それもそうだよな…こんな時代からこんな発展しているんだもんな…)
堺の持つ特別な何かを津久見は感じ取っていた。
(ここから世界と繋がって行く…。か。)
と、そこへある商人が平岡の持つ箱を見て、声をかけてきた。
「お、ちょっとそこのお侍はん。ちょいとよろしいか。」
「ん?」
平岡が怪しみながら、津久見の前に立った。
「そんな怖い顔しなはんな~。ちょっと見せてほしいねん。それ。」
と、平岡の持つ木箱を指さし言った。
「こ、これか?」
と、平岡は戸惑いながら言った。
「それ以外にありまっか?お侍はんには興味ありまへん。」
「な!」
平岡は少しむっとしたが、津久見が間に入り、その木箱をその商人に差し出した。
「これですね。」
「おおきに。おおきに。ちょっと見せてもらいます~」
と、商人は受け取ると木箱を手際よく開けながら言った。
「ほ~これはまた綺麗な焼き物ですな~。唐津ですな?」
と、商人は焼き物を掲げながら言った。
「お分かりですか?」
「ん?そんなん堺の商人に言うたらあきまへん。わしらは何でも目利きできますねん。」
津久見の方を一切見ずに、焼き物を吟味しながら言う。
「まあ唐津の焼き物はそこまで珍しくは無いですがな~」
と、ゆっくりと木箱の中に戻しながら言った。
「ん?これは…」
と、木箱の底にある紙を取り出した。
「ん?『唐津焼 焼き手 雲流斎 慶長5年 9月 作』…。」
商人はその紙を読み上げた。
「先月唐津で焼いた物でっか?」
「そうです。」
津久見が言う。
「う~ん、なかなか鮮度のええもんでんな。ようこんな早く堺に持って来れましたな。」
「鮮度の良い物はやはり値打ちが出ますか?」
「物と買い手に寄りますな。季節の物が入れば値が付きますな。おおきに。」
と、商人は木箱を戻しながら言った。
「どの時代でも、買い手がいるからこその商いでっせ。この堺には目利きの良い近江商人やらも買い付けに来るさかいに。」
「なるほど…。」
商人は平岡に木箱を渡すと、また店に戻って行ってしまった。
「何だったんだ…。」
平岡は不思議そうにその後姿を見ていた。
「皆さん、私の考えは通用しそうですね。村上さんと商業を発展できそうです。」
津久見は笑顔でそう言うと、また歩みを進めた。
50m進んだくらいでまた、声を掛けられた。
「お侍はん、その木箱見せてくれやんかい。」
それから津久見達は何人もの商人に声を掛けられ、最終的には木箱に布をかけ隠すように堺の街を出た。
大和川を超え、堺の街を後ろに見ると、5人はやっと一息つき皆顔を見合わせた。
5人の視線が合うと同時に全員笑った。
「凄い街じゃったな。」
眩しい夕陽は5人の影を生みながら、5人は進む。
久しぶりの大阪城が見えて来た。
第58話 完
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