大坂城会議

第59話 今後の展望を思慮

1600年 11月3日 津久見達一行は大阪城の門を再びくぐった。


津久見の頭の中では、


翌年の2月1日に開かれる第一回「天竜川連絡会議」が頭にずっと残っていた。


「島森に会いたい。」


というよりは、この国の為政が彼の頭を占めだしていた。


国の安定の為には、まず天竜川以東の徳川家との戦を完全に廃す方向で、諸大名を説得する必要がある。


これは、ひとまず今の所、問題は無さそうだ。


次に問題になるのは、和議強行による、諸大名へ分配されるはずであった、領土問題であった。


ここに津久見は『豊臣直轄領』として統治している領土の切り取り分配で乗り切ろうと考えていた。


それに加え、徳川軍に付き、関ヶ原の合戦に参加し、天竜川以東に退陣していった、いわば領土から切り離された武将に「藤堂高虎」「生駒一正いこまかずまさ」「寺沢広高」「細川忠興」らがいる。


この領地に関しては、2月に行われる「連絡会議」で該当諸大名の意向を伺う事とした。


例えば、生駒一正は讃岐守であるが、今は東軍として徳川家康の元にいる。


天竜川以東で、新たに領地を所望するか、西日本として讃岐に戻るか。


これは、島森との話し合いで、選択式にすると、真善院で島森ともう決めていた。


2月の連絡会議まで領土問題を先延ばしにできるかはまだ分からない。


未だに今回の和議に関して、嫌疑の念を持つ大名も多い。


それに逆を言えば、東国に残った、三成に呼応した「上杉景勝」「真田昌幸」らが、その後どのような行動を取ったのかも気にかかる。


津久見は関ヶ原の戦以降、大垣城、大阪城、九州遠征…いかなるところであったも、これらの事が頭から離れず、常に思索を巡らせていた。


そして一番の問題が自分の大義であった。


それは「豊臣家を中心に戦の無い世を作る」である。


豊臣家をどのような立場に置いて、どのように結束をさせるか。


もし仮に秀頼が立派な青年将軍であれば話は別だが、まだ7歳である。


後見人を擁立するにも、権力闘争が行われるのは、火を見るよりも明らかである。


それに朝廷との関係である。


今の所、朝廷からの報せは無いし、こちらも動いていない。


だが、朝廷をないがしろにして国造りはできない。


問題は山積みである。


大阪城に入ったのが夜という事もあり、明朝より奥の間で会議を行う事が決められていたので、津久見は大阪城内の一室で横になっていた。


仰向けになりながら足を組みながら、今後の事を必死に考えていた。


考えが行き詰まると


(なんで俺が石田三成になっちゃったんだよ。)


と、少しふてくされる。


しかし、すぐに頭の中では、この国の事が考えられていた。


(なんか俺、ここまで国に対して考えた事なかったな~)


と、自分でも感心していた。


(携帯があれば好きな時に何でも調べられるし、連絡できるけど、この時代は…)


と、津久見はむくっと立ち上がると一枚の紙を手にし、燭台を近づけその紙を見た。


その紙は、左近にお願いして用意してもらった、各大名の所在地と石高が記されたいる地図であった。


「石田三成 佐和山城主 19万石


 毛利輝元 広島城主  101万石


 宇喜多秀家 備中岡山城主 57万石…」


「やっぱ五大老の二人は凄いな…。この二人を抑えたうえで、直轄領を切り取り分配して…。」


津久見はその日本地図で空白の部分を眺めながら言った。


空白の部分は全て、豊臣家の直轄領であった。


合わせて220万石ほどである。


「東軍では、加増する地がそこまで無いだろうから、西日本に戻って来る大名も結構いそうだな…。」


関ヶ原の合戦が歴史通り行ったのであれば、西軍のほとんどは領地の没収・減封が行われ、東軍大名はことごとく加増されている。


家康の周り、特に本多信正がどんな調略で東日本を収める案を出しているかは分からないが、明らかに東日本に、撤退していった諸大名に分け与える領土は無い。


(そう考えると、やはり直轄領の切り取りしかないか…)


津久見は地図を小机に置くと、燭台の火に息をかけ消した。


月明かりを求め、窓側へ歩み、月を眺めた。


(まずは明日からの諸大名との話し合いだな…)


月に心を癒してもらうと、津久見は布団に入った。


11月


殊更この日は冷え込む夜となった。


第59話 完

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