第52話 大一大万大吉とは
「殿、官兵衛殿の説得上手く行きましたな。」
左近が、馬を近付けながら喋りかけてきた。
「そうだね。言ってみるものだね。」
(おじき…さすがだったな。でも、本当にこの先の事考えないとな…。)
津久見は官兵衛説得の為に、今後のあらゆる施策を頭に浮かんでは述べていた。
が、それが、実現可能なのか、現実味があるのかは全く分からない。
人知れず、不安というものが、津久見の体を覆った。
(領土問題。これは豊臣直轄領の切り取り配分でどうにかなる。関ヶ原の戦いで、どちらに付いたかは、問題にせず、領土を減らすことなく、微増でも増やしておけば、納得するかな。)
シップの上で津久見は思考を走らせた。
(問題は、その後だ。豊臣家を中心に、この西日本を収める。戦はまっぴらごめんだ。その為には、国内での戦さを終わらせ、その活力を何に向けさせるか…か。)
津久見は顔を曇らせる。
それに気付いた喜内が馬を近付け
「殿、大丈夫でございますか?何やらお顔が晴れませんが…」
と、心配してきた。
「あぁ、喜内さん。大丈夫ですよ。」
気丈に津久見は振る舞う。
「そうですか。それなら良いのですか。」
と、喜内は馬を離そうとした、そこに津久見が声をかけた。
「喜内さん。ちょっと聞いていいですか?」
「何なりと。」
「喜内さんが、一番嬉しい瞬間とはどんな時ですか?」
「拙者が?ですか?」
「はい。」
「うーん。」
喜内は少し困った様子で考え込むと、ハッとなにか思いついた様に言った。
「殿が喜んだ顔を見る時ですな。」
「私がですか?」
「はい。我ながら満点な答えですな。」
「そうですか。」
津久見は少し嬉しくなり、顔がほころぶ。
「それです。それです。その笑顔を見たら私も嬉しいですな!」
喜内は更に言う。
この男も、あの殺伐とした関ヶ原の戦いの時より、津久見と行動を共にし、その人格に触れ考え方が変わってきた様である。
本来の歴史上では、あの関ヶ原の戦いで、命を落としたこの武将もまた、津久見の元新たな歴史を津久見と歩んでいた。
「殿。逆にお聞きしてよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
「殿は、どんな時が嬉しいですか?」
「私ですか?んー…。」
津久見は考えた。現実世界での楽しみを考えた。毎日、同じ時間に学校へ出社し、誰一人として聞いていない授業をして、ただ、帰る毎日。しまいには、生徒にイタズラをされて、何故か今石田三成として生きている。
そう考えると、今の方が、生き甲斐を感じていた。
物の豊かさこそ無いが、人間本来の生の喜びがここにはある。本当の笑顔がある。
津久見は道中様々な場所で出会った村や町で出会った百姓や町人達の顔を思い浮かべていた。
「そうですね。私は、皆が笑顔になっている時が一番幸せですね。」
すると喜内が言った。
「大一大万大吉…でございますな。」
「あっ。」
「これまた、私、満点のお答えできたようで。ははは。」
(俺のこの考え、もしかしたら、三成がしようとしてた世界なのかな。領主は民の笑顔の為か。)
津久見は空を見上げ、石田三成の顔を思い浮かべながらそう考えた。
(いや、俺が石田三成だよ?自分の顔思い浮かべてたってこと?)
津久見は混乱しながら、シップの上に、もたれかかった。
佐伯港は近い。
第52話 大一大万大吉 とは 完
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