第51話 草案起案
「痛たたたた…。」
二日酔いからなのか、頭痛が酷い。
津久見は頭を押さえながら起きた。
何故ここで寝ているのか、全く記憶がないだが昨日の宴会がえらい楽しかった記憶だけはあった。
痛む頭を抑えながら、衣服を整えて、昨日宴会の行われた、広間に向かった。
(昨日は楽しかったな…。)
そんな風に思っていると、自然と笑みがこぼれた。
現実世界で、いわゆる「飲み会」はあるが、あんないかつい男ばかりで、裸になりながら、踊ったり、歌ったり…。到底できない経験をした。
広間に着くと、驚きの光景が広がっていた。
そこには、官兵衛を上座に、武将たちが整然と座っている。
昨夜の宴会が嘘のようである。
その中に、左近や喜内もいた。津久見に気付いた、左近は
「おお、殿。お目覚めで。さ、官兵衛様の隣へ。」
と誘われるように官兵衛の横に座った。
官兵衛の方をちらっと見ると、官兵衛は笑顔を返してきた。
何かほっとした。
「さて、治部よ。今日出発という事だが、今後の事少し詰めておきたいのじゃが。」
「あ、はい。」
ジンジン痛む頭痛に耐えながら答えた。
「我ら、黒田家はどうする?」
「はい。各大名家の今後の領土加増に関しては、大坂に戻ってから協議したいと思っています。」
「そうか、そうなると、
「いや、それは何としても阻止します。平等に領土の分配を考えています。」
「平等に?またおかしな話を…。」
「今回の戦、勝者も敗者もいません。いるのは、今後のこの国を作って行く、同志達です。」
「同志か…そんな上手く行くか?」
「なんとかします。戦の無い世。その次にあるのは、農業と、商業。そして、教育に重点を置きたいと今、考えています。」
「教育???」
「はい、子は国の宝です。生まれの貴賤を問わず、皆が平等に教育を受け、立派な大人に育てていく。10年後・20年後の国を作って行く、者達ですから。だから、教育に力を入れたいと思っています。」
さすが、現実社会で教師をしているだけある。
「しかし、残された、武士。侍はどうする。」
「そこはまだ考えている、最中ですが、戦はもうしません。故に軍隊は必要ないかと。しかし、街が発展すれば、治安が、悪くなる事も想定しておりますので、それを取り締まる部署を作ってはと…。」
「うむ…。奉行所のようなものか。」
「それに、健全な体と心を養うために、道場を開くのもありかと…。」
「はははは。治部は突拍子の無い事ばかり考えておるな。ははっは。」
官兵衛は諸将を見ながら笑った。
「はい。それに、異国の文明を取り入れようかと…。」
「異国の?」
「はい。私はここに来る際、堺の街を見てきました。異国の物で溢れ、それはそれは最先端の技術の物ばかりでした。このままでは、異国との文明の差がドンドンできてしまいそうで…。」
「そうか。でも、異国の者たちは、この日の本を占領しに来るやもしれぬぞ。」
「はい…。そこがネックです。おじき。」
「ねっく?」
「いや、まあ、一旦大坂に帰りますので、また報告させて頂きます。」
「そうか、そうか。分かった。」
すると、津久見は立ち上がる。
「行くか。」
官兵衛が言う。
「はい。」
と、津久見が答えると、
「ちょっと待て、これを…」
と、官兵衛は近習の者に何か言うと、その近習達が津久見に何か、大きな木箱を渡してきた。
「焼き物じゃ。朝鮮出兵の際に、朝鮮から技巧者を太閤が連れてくるようにと、仰せでな、唐津の方で、大量に作っておる。特にそれは焼き立ての鮮度のいいやつじゃ。土産に持っていけ。」
「わわわ。ありがとうございます!!!」
と、津久見は答えると、左近に付き添われて、部屋を出た。
準備を終え、荷物を整え、中津城の城門に進んだ。
そこに官兵衛が見送りに来ていた。
「しばしのお別れじゃな。」
「はい。おじき。」
「これからの国作り。楽しみにしておるぞ。」
と、官兵衛は手を差し伸べて来た。
津久見は何の躊躇なくその手を握り、顔を縦に振った。
「では。おじき。また来ますね。」
とシップに跨りながら言う。
「おう。長政の件宜しくな!」
「はい。お達者で!」
こうして津久見達は中津城を後にした。
第51話 草案起案 完
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