第41話 ビジネスの話

潮の匂いで津久見は目を覚ました。


(う…。あ、今回は誰にも殴られずに起きたぞ。)


と思いながら、立ち上がる。


波風が清々しい。


甲板に出て周囲を見渡すと、一面海であった。


「殿、お目覚めでございますか?」


声を掛けてきたのは平岡であった。


「ああ。平岡ちゃん。海は気持ちいいねえ。」


「拙者は少々怖いです。」


「そなの?」


「はい。船に乗るのが初めてなもので…。」


「そっか。船酔いとか大丈夫!?」


「いや、それがちょっと気持ちわ…」


と言いかけると、平岡は口に手をあて、どこかに行ってしまった。


遠くから嗚咽の声がする。




「平岡ちゃん…。」


津久見は少し笑いながら言った。


(今どこらへんなんだろう…。)


辺りを見渡すが見当もつかない。ただ見える風景は昨日までの地獄絵図の戦場とはまるで違い、カモメが飛んだりする平和な海であった。


水面には魚群の群れが手ですくえそうな程澄んでいる。


遠くに見える陸地には小さな漁師小屋が見える位だ。


(ああ。古き良き日本の姿ってやつかなあ)


と、津久見は少し感傷にふけていた。


すると、足音が聞こえて来た。


「おう、治部殿。お目覚めか。」


村上武吉むらかみたけよあしであった。


津久見はまだこの男の免疫ができていない。


後ずさりしながら、


「はい、今起きた所です…。」


「そうかそうか。治部殿は船は初めてか?」


村上は聞いてきた。


「いや、サンフラワー号で…。」


「さんふらわあ?」


「いや、え~っと、二回目くらいですかね。」


「左様でござるか。」


「今どこら辺なんですか?」


「今伊予の辺りを超えたところにござるよ。」


「あ~もう、そんな所まで来てたんですね。」


案外普通に喋れる村上に、すこしづつ津久見は慣れて来た。


「佐伯にはあと一時間くらいでつきますぞ。」


「佐伯…。大分県じゃないですか!!」


「おおいたけん?」


「いや、何でもないです。」


津久見は実家の大分の佐伯港に向かっている事に殊更喜んだ。


(佐伯か…。懐かしいな。よく堤防で釣りしたなあ。俺の先祖様とかいるんかな)


等と考えていたら、村上が聞いてきた。


「治部殿は戦の無い世を作りたいと仰っていられるようで。左近殿から聞きましたぞ。」


「あ、はい。そうです。」


「でしたら我々水軍大名はどうすればよい?伊予の一角を収めてはおるが、本業は…。」


「海賊…ですか?」


「ん、まあ、悪い奴らを懲らしめてるだけじゃけどな。」


「そうですか…。」


津久見の頭は回転し始めた。


海賊業を止め、伊予の一角だけに収めるには、この水軍は勿体なすぎる。


津久見は顎に手をあてながら空を見上げ考えた。


するとふと、津久見の中で一案が思いついた。


「海運業…。」


「ん?なんですと。」


「海運業ですよ!この立派な船たちと、乗組員。西日本を縦断して、各地の特産品を海を渡って届ける。どうですか?これ。」


「何を言ってるのかさっぱりわからん。」


「だから、村上水軍じゃなくて、を作りましょう!」


「海運…。そりゃあ、稼げるんか?」


「きっと。どっさり。」


津久見はニヒルな笑みを浮かべる。


「ほんまかいな。それやったらやってもええけど…。」


「ちょっと、この話、豊後ぶんごが落ち着いたら、帰りの船で話しましょう。」


「うん。そうだな。がっぽりいけるんか?」


「がっぽり。」


津久見はまたニヒルな笑みで村上を見る。


すると、


「あ、治部殿。佐伯港でござる。降りる準備をしてくだされ。」


「あ、はい!」


津久見は真顔になって、準備を始めた。


船は港に着岸し、板がかけられ、津久見達は降りていく。


港を少し歩きながら


(どこか、故郷の匂いがする)


目を瞑り息を深く吸いながら、津久見は思った。


すると、行く手の先から、50名ほどの武装した兵士が、槍を片手にもう突進してきていた。


「え、なんで!?」


先頭で馬に乗っている武将は、先の長い兜に丸の絵が描かれている兜を被って、槍を片手に一直線に、津久見に突進してきている。


「え、ちょ、。」


「治部よ!!覚悟!!!!!」


その武将は、槍の穂先を津久見に向け突き刺してきた。


「うっ!!!」


津久見は後ろに吹き飛ばされてしまった。


第41話 完

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