第39話 出発

「左近!ここらへんね!?」


「あっ、姫!そこでは!!!!」


「ふん!」


津久見の身体に衝撃が走る。


その体は仰向けのままに曲がっていた。


「うぐぐぐぐ…。」


悶絶している。


「姫…そこでは…。」


と、左近は頭を抱えながら、しかしどこか半分笑いながら言った。


「起きたかの?」


島津義弘が乗り出して見て来た。


「起きましたよ…。」


津久見は目をパっと開け、義弘の目を睨み返した。


そしてむくっと起きると、左近を見る。


「左近ちゃん…。起こし方…。雑すぎるし、股間殴るのは無しだよ…。」


「いや、今回は、ぷふ。淀君が…。」


含み笑いをしながら左近は答えた。


「だって、左近が『ちょっと叩けばそのうち目覚める』って言うから~。ごめんね?痛かった?」


淀君が舌を出して謝って来た。


「いや、良いんですけど、当たり所悪かったら…。」


そこに少年が近付いてきた。


豊臣秀頼である。


「治部よ。母君の無礼失礼いたした。今後の事は、治部に任せる故、頼んだぞ。」


と、言うと淀君と一緒に部屋を出て行ってしまった。


(しっかりしてる子だなあ。秀吉の子か定かじゃないけど、今この国の棟梁に祭り上げられてるんだもんな…。)


津久見はそう思いながら、正座しなおし皆に向かい合う。


「して、治部殿、豊後へはいつ行かれる予定で。」


宇喜多秀家が聞いた。


「はい、もう今日にでも出ようかと。」


「今日??それまた、急な。」


「いや、一刻でも早く黒田さんに会わないと、嫌な予感がするんですよね…。」


「まあ、あの方は権謀術数に秀でた者。何をしてくるか分かりませぬな。」


「はい。それに加藤清正・立花宗茂・生駒一正…数えればきりがないほど東軍派の大名がいます。もし、黒田さんが今回の停戦を知ったとあれば、その者達と結託して、ここに攻めてくるかもしれませんので…。」


「うむ。まあ早い方が良さそうじゃな。」


秀家は、津久見の顔を見ながら言った。


「治部よ。」


今度は島津義弘が口を開いた。


「南へ行くなら、我が弟、豊久に道案内させるが良い。わが軍の帰還に合わせて九州へ向かえば良い。な、豊久。」


と、隣の男に向かって言う。


「はっ。毛利様とももう話はついてございまする。」


と、だけ男は言った。


(毛利??なんだろ)


と思いながらも


「おっちゃん…。ありがとうございます。でしたらそうさせて頂きます。」


津久見は立ち上がると、今一度皆の顔を見ながら


「今回は本当に私の独断で、戦局を変えてしまい、ご迷惑をおかけいたしました!でも、これからは皆で手を取り合って、百姓の笑う国を作って行きましょう。」


「はは。治部め、何かに取りつかれたような人間の変わりようじゃ。」


義弘はそう言うと、大いに笑った。


(ははは。中身変わっちゃってるんだけどね…。)


「それでは行って来ます。大阪城ここは、大谷さんを中心に兵の撤退作業を進めてください。宜しくお願いいたします。豊久さん行きましょう。」


と言うと、津久見は島津豊久を連れ、外に出て行った。


後には、左近と平岡、喜内が付いてきている。


(黒田官兵衛…どう説得するか…。)


津久見は心の中で少し不安であったが、早く稀代の軍師に早く逢いたいと、思っていた。


規制の取れた島津撤退部隊は、30分もしないうちに準備が整うと、ほら貝を鳴らし出発した。


その中心部に、津久見の姿はあった。


第39話 完

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