第37話 大阪城

大阪城は、1583年(天正11年)から豊臣秀吉によって築城が開始され、豊臣家の本拠地となった。


大坂城は、上町台地の北端に位置する。


今でも日本三名城のひとつに数えられる場合もある。


「太閤はんのお城」と親しみを込めて呼ばれるこの城はまさに巨城。


津久見は、神戸市に住んでいるので、たまに大阪に出ると、その荘厳な姿は電車の中からも見て取れた。


実際に、登城したこともある。


大阪城の周りには近代ビルが立ち並ぶ中、その中でも異彩を放っている。


大阪府民は、いつの時代もこの大阪城と、通天閣を見て、勇気をもらっているのである。


実際現実世界の大坂城は徳川家によって造られたものである。


秀吉の作った大坂城。


そんな大阪城が目の前に見えて来た。


「あ~あれが大阪城ですね。」


津久見が言う。


「いかにも。」


左近は前を走りながら答える。


「なんか…私の知っている大阪城より大きいなあ…。」


「何を仰っておりますか?つい最近にも秀頼様謁見に際し来られていたではないですか。もうお忘れですか?大丈夫ですか?」


「…。何その言い方。」


「ほれほれ、もう着きますぞ。」


大阪城がその姿を完全に表してきた。


何層になるのか分からない天守閣、至る所に櫓やなんやら、スケールが違う…。


津久見は緊張しながら大手門をくぐった。


馬を預け、城の入り口まで登って行った。


そこに、二人の男が待っていた。


「遅かったな治部。」


「ほんに、もう皆集まってるぞ。」


と、少し不機嫌な様子である。


(誰だろう…?)


と、想いながら津久見は中に入って行く。


荘厳な城の中を歩き、大広間に着いた。


広間には既に数十人の人間がいる様子であった。


襖が開かれ、津久見は、先程の二人を先頭に中に入って行った。


中にはやはり、20数名の男たちが座って、津久見を見ている。


中にはにらみつけるように見ている者もいた。


左近や喜内は広間の一番後ろにいる。


恐らく秀頼が座るであろう上座の左右に分かれて先程の男たちと左近は座った。


(俺がここに座って、一緒に座っているという事は、五奉行の人か?)


津久見は頭を回転させ、詮索した。


すると、男のうちの一人が立ち上がり


「それでは、全員集まりましたので始めたいと思います。まず此度の会議の出席者からお伝え…」


と、言いかけると、一人の男が割って入ってきた。


「正家殿!そんなん、宜しい。治部殿に何故、戦をお止めになられたのか聞きたい!まずはそこからじゃ。」


正家と呼ばれた男の名は、長束正家なつかまさいえと言い、算術に優れ、三成と同じく五奉行の一人に選ばれた男である。


(という事はもう一人の男は増田長盛ましたながもりか…。)


と、津久見はもう一人の男を見て思った。


「宇喜多殿…そう申されましても…。」


(宇喜多?秀家か。)


と、津久見はその宇喜多の顔を見た。秀家の目は津久見を睨みつけていた。


目がくるりと丸く、面長で耳が大きい。


(確かに、宇喜多勢は関ヶ原の戦いで良く戦ってくれたからな…。)


「治部。話すか?」


正家はこちらを向かい言う。


「…。はい。話さなきゃ始まりませんもんね。」


と、言うと、立ち上がった。


一同の視線が三成に集まる。



「まず、初めに、皆さんご苦労様です。私の発案で、関ヶ原からここ大阪城にまで移動してくださって、本当にありがとうございます。」



「???」


(偉い謙虚だな…。)


と、皆が思った。


「結論から言います。あのまま戦をしていたら、我々は負けてました。」


「何???」


場内がざわつく。



「う~ん。多分私は逃げて、山中で捕まって、小西さんと恵瓊さんと一緒に、三条河原で首を斬られていたでしょう。宇喜多さんは、結局は八丈島に島流しにされていたでしょう。島津のおっちゃんは、数人の兵と共に海路で這う這うの体で薩摩に帰ったが、減封。大谷さんは…。」


津久見はここで、言葉を詰まらせた。


津久見の知る日本史では、大谷吉継は関ヶ原の合戦の最中唯一切腹をして果てる運命だったと知っていたからである。


すると、奥から小さい声だが、力強い声がした。


「恐らく、潰走。わしは腹を切っていたであろうな。」


そこには大谷吉継が座っていた。


「大谷さん!」


「そう、言いたいのじゃろ、治部よ。」


「…はい。」


「そうか、お主の読みはあながち外れておらぬな。朽木・脇坂達の裏切り、動かない吉川殿、それにどちらに着くか悩んでいた金吾殿。勝つ要因より、負ける要因の方が多いわな。」


「ありがとうございます。そうです、あのまま戦っていたら我々は、負けていました。ですので、休戦を申し入れました。」


「なんと!!お主一人の独断でかそのような大事を!!!?」


と、声を荒げたのは、増田長盛であった。


増田は続ける。


「西軍の総大将は毛利輝元様じゃぞ。なのになんでお主が、そんな大事を決める!!」


と、白髪の生えた、反対側に座る男を見ながら言う。


(あの人が五大老毛利輝元か…。)


津久見はひとりずつ、名前と顔を確認していく。


そんな中左近が口を開いた。


「恐れ多くも一言。合戦前日より再三、殿の指示の元、毛利様にはご出陣の催促をしておりましたが、何故、戦場に赴かれなかったのですか!!?」


津久見の知っている、自分で遊ぶような左近とは別人のようであった。


「そ、それは…。」


長盛は顔を曇らせ、助けを求めるように輝元を見る。


輝元の顔も冴えない。


「淀君か…?」


左近が言う。


「…。」


二人は何も言わない。


「到底想像がつきますわ。淀君が、戦を恐れ、輝元様の出陣を引き留めたのでありましょう。」


「…。」


「逆に言えば、輝元様が遅れてでも、参陣なされれば、西軍の勝利は目前でございました。なのに、どの口が三成様を責めれますか!」


(左近ちゃんナイス!!!)


と、津久見は思った。


「な、なに…。」


輝元は憤ったが、的を射られ、黙ってしまった。


場内はどこか何も言えない空気が流れていた。


すると、外から足音が二つ聞こえて来た。


「ガラっ」


と、襖が空けられると、一人の少年と女が入って来た。


その女は、切れ長の目で、着物の上からでも分かるスタイルの良さ。


どこか良い匂いすらする。


まさしく妖艶。


その姿を見た津久見は鼻血を出し、よろけた。


第37話 大阪城 完

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