第33話 固まる決意

「殿はお休みになられないのですか?」


 奥の間から出ながら左近問う。


「なんか、胸の高ぶり?寝れやしないですよ…。」


「そうですな。気絶して休まれてましたしな。」


「…。」


 津久見は立ち止まると、左近を睨みつけ、また歩き出した。


「いやあ、でも本物のお城って凄いですね。」


 津久見は、城の内部の梁などを触って言う。


「殿にも立派な城がござりましょう。」


「佐和山城…だっけ?」


「はい。立ち寄りますか?伏見までの道中にございまするぞ。」


「それもいいですね。お城見物してみたいものですし。」


「では、佐和山城経由で、伏見城へ向かいましょう。」


 二人はもう、大垣城の城門に達していた。


 そこに喜内と平岡が加わる。


「大丈夫でございましたか?」


 と、喜内が問うと、津久見はシップに跨りながら、


「また大谷さんに助けられました。今から佐和山城へ寄ってから、伏見の北政所様の元に行こうと思います。」


「左様でございますか。でしたら、私たちもご一緒致しまする。」


 と、二人は各々馬に跨り、津久見の後ろに続く。


「ありがとうね。二人とも疲れてるだろうに。」


 もう、夜の8時近くで、真っ暗である。


 平岡が用意した、松明の灯りを頼りに4人は道を進む。


 今朝まで大合戦をしていたとは思えない位、静かな夜である。


 何も遮るものの無い空は、どこを見渡しても、星が輝いている。


「ビルや電灯が無ければここまで綺麗だなんて…。」


 と、津久見は感傷にふけている。


「び…る…?」


 喜内は津久見の口から出た単語を不思議がりながら馬を進める。


「平岡ちゃん。」


「はっ。なんでしょうか?」


「平岡ちゃんは御兄弟はいらっしゃるんですか?」


 前を進む、平岡に津久見は言った。


「はあ。弟がおりました…。」


「おりました?」


「はい、九州仕置きの際に、参陣した際に、朽ち果てました…。」


「そうだったですか…。すみません、知らずに…。」


「いえ。元服直後の初陣でございました。敵の銃弾に撃ち抜かれ、死んでしまいました。結果は、太閤様の軍の圧倒的な兵力の元、島津家は降伏いたしましたので、喜ばしい事ではございますが…。」


「…。そうですね。戦に勝ったとしても、そこには、多くの人の犠牲がある…。そこには何人もの家族がいますもんね…。」


 津久見は、満天の星を見上げながら言った。


「その戦を、殿は無くす。と、殿は言われましたね。」


「あ、はい。」


「そんな事はできるのでしょうか?馬廻りの身分では到底想像も付かぬことにございまする。」


「そうですよね。問題は山積みです。でも…。」


「でも?」


「人の死なない、戦の無い、母・子が泣かない世の中を作って見せると、今また決意できましたよ。」


 と、津久見は満面の笑みで、平岡に返す。


 平岡は今にも泣きそうな顔を隠すように、前を向き、道を照らす。


「殿、そろそろ佐和山でございまする。」


 左近が言う。


「あれですか。」


 遠くに、夜陰の中に小さなかがり火をたいている城が見えた。


「あれが我居城、佐和山城か…。」


 琵琶湖の湖畔にある、この佐和山城。


 三成は、当時荒廃していたという佐和山城に大改修を行って山頂に五層の天守が高くそびえたつほどの近世城郭を築き、


 当時の落首に「三成に過ぎたるものが二つあり 島の左近と佐和山の城」と言わしめた程であった。。


ただし、三成は奉行の任を全うするために伏見城に滞在することが多く、実際に城を任されていたのは父の正継まさつぐであったという。


 城内の作りは極めて質素で、城の居間なども大抵は板張りで、壁はあら壁のままであった。


 庭園の樹木もありきたりで、手水鉢も粗末な石で、城内の様子を見た当時の人々もすこぶる案外に感じていたという。


やっと、城門に着くと、先に走って行った、平岡の報告で城門が開かれた。


城門をくぐる。


帰宅。


そんな感じは全くしなかったが、何故か親近感を感じる城であった。


「おう!!!三成!!!帰って来たか!!!」


前から完全武装した大男が、近づき津久見の両肩を強く掴むと、


「よお戻って来たわい!!!」


と、大声で言った。


津久見は、案の定白目を剥いて泡を吹いていた。


第33話 完

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