第32話 黒幕?

「こうじゃな?」


「そうでございます。」


「ふん!」


「ぐえ!!」


津久見はみぞおちに激痛を感じ目を覚ました。


寝そべった自分を何人もの武将たちが顔を覗き込んでいた。


「起きた起きた。左近殿の言う通りじゃ。」


言ったのは島津義弘。今の一発は島津義弘の掌底であった。


「ちょっ、皆さん…遊ばないでくださいよ…。」


と、津久見はよろよろと起き上がる。


「急に倒れる治部殿が悪いぞ。ははは」


と、義弘は笑いながら言う。


「いや、なんかここ最近すぐ気絶してしまって…。あっ!淀様の使者は!?」


「もう城を出て行ったぞ。」


大谷吉継が答える。


「それに、かの者、淀君の使いではなさそうじゃ。」


「え!じゃあ。え??」


「頭の切れるお主なら分かっておったと思っていたが、あれは北政所きたのまんどころ様の手の者じゃ。」


「北政所様?…って、秀吉の奥さんの??」


津久見は驚いたように言う。


「太閤様な。そうじゃ。」


「なんで、そんな事を…。」


「恐らく、淀様は何も動いておらん。戦に怖気付いて、秀頼様を守るのが精いっぱいじゃろうて。」


「じゃあなんで、北政所様が…。」


「これは儂の推測だが、今回の戦。どうも北政所様が色々と裏で動いてそうじゃ。」


「え、なんでですか?」


「よく考えてみよ。太閤の正室の北政所様としては、側室の子供、秀頼様を囲って淀君が力を持つことは、あまり気持ちのいいものじゃない。」


「確かに…。旦那の天下を、その側室の息子が継ぐとは、かなり複雑ですね…。」


「そこでだ、北政所様はもともと尾張出身じゃ。今回東軍に名を連ねた者は尾張の者が多い。福島正則を始めな。奴らは、北政所様の子飼いの将じゃ。若い時から、北政所様が育てておった。」


「なるほど…。」


「そこに、近江出身のわしや、お主。それに淀君。あの調略好きの家康の事じゃ、そこに目を付け、北政所様の元にも策を講じておったのであろう。」


「そんな!」


「北政所様としては此度の戦、どちらが勝っても良い。いや、むしろ東軍が勝って、淀君と秀頼様を亡き者にと考えていたのかもしれぬ…。」


場内はざわついた。


豊臣家の為に戦って来たのに、秀吉の妻である北政所はそれを心地よく思っていないとは。


「刑部殿。」


ざわつく場内の中、小早川秀秋が口を開いた。


「金吾殿いかがいたした。」


「実は私、戦の前に北政所様の所に行っておったのじゃ。」


「なんと?」


渦中の話題である、皆の視線が集まる。


「そこで、内府様より、東軍につくようにと、調略の使いが来ておった。


わしは決めかねて北政所様にご助言頂こうと思ったのじゃ。」


「して、北政所様はなんと。」


「『秀秋がしたいようにすればよい。お前が死なぬように。戦況を見極めて判断するが良い』と。」


「なんと!!」


「北政所様が!」


一層部屋はざわめく。


「治部いかがする?」


大谷吉継は津久見を見て言う。


「え、あ、はい。」


津久見は座りなおしながら言う。


「まとめると、


①北政所様が家康さんと繋がっていたかもしれない。


②近江出身の私たちと、淀君はむしろ意見が合うはず。


③西国諸大名の中にも、尾張派(家康派)の大名がいる。


という事ですね?」


「う~ん、まあそうじゃ。」


「北政所様は今どちらに?」


「京。伏見じゃ。」


「でしたら、行ってみるしかなさそうですね。伏見に。」


「うむ。今後の事もある故。」


「では、皆さん、ご足労とは思いますが、皆さんは大阪城に入ってください。秀頼様へ皆で報告に行きましょう。私は、左近ちゃんらと、伏見に行ってから、駆け付けますので。」


「そうじゃな、大阪城には毛利殿や、増田らもおるからの。今後の話をするのにはうってつけじゃ。」


「それでは、皆さん今朝からの戦で疲れてるでしょうから、今日はゆっくり寝て、明日出発してください。」


「…。」


皆呆気に取られて何も言わない。


「どうしたんですか?疲れてないんですか?私はもう今日色々ありすぎてクタクタですよ。」


と、肩を落とす仕草をする。


「ほんに、石田治部殿か?」


と、皆人が変わった三成を不思議そうに見つめていた。


夜は更け、皆泥の様に寝た。


(案外、三成にも人望とやらができてきたかもしれんな)


と、大谷吉継は月夜の下、寝ている諸将を横目に、月を眺めながらそう思った。


(儂の命、あとどれくらい持つかのう)


その目には哀愁とも生への執着にも見えた。


第32話 黒幕? 完

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