第25話 正体

!!!!!!!!!!


津久見は驚き、後ろに飛び跳ねた。


「え?」


「え?」


家康も驚きを隠せない。



(まさか…?)



津久見は、ちょっと前に立てた、この家康という男の正体の仮説が、現実味が増してきていた。


ゆっくりと、座りなおすと。



「三宮のパチンコ屋行くか?」



と、突拍子も無い、質問を投げかけた。


「!!!!!!!!!!!!!」


家康は目が飛び出そうな程、驚いていた。


「お前!!???」


と、声を震わせながら言う。


「行くか?」


「行く。」


………………。



……………………。



津久見は確信した口調で言った。



「お前…島森か?」




!!!!!!



「え!!!何で!!!?」



「違うのか?」



「いや…。そやけど、自分…もしかして…。」



津久見はコクっと首を縦に振る。



「嘘やん。ほんまに?」



「ああ。やっぱり島森だったのか…。」



「津久見~。」



と、島森は泣きそうになりながら津久見に抱き着いてきた。




なんと、敵軍総大将・徳川家康は津久見が勤務する中学校の理科の教師。


あの時、学校の廊下を一緒に歩いていた、島森浩平であったのである。



はたから見ると、世紀の大戦をした両軍の大将同士が、密室で再会を喜び抱き合っているとは、この関ヶ原にいる誰にも想像できなかった。



「いや、お前のクラスの前、通ったら、廊下に油みたいのん、まかれてて、それに滑ってな。起きたら、何か鎧着て、座っててん。」


「お前もか。」


「そんでな、何か騒がしいけの、『殿、開戦の合図を!一番槍は徳川直臣に!!』みたいなん急に言われてやで。」



「そっか。お前も、この時代に来てたんだな。ちょっと、おかしいと思ったんだよ。」



「何が?」


「いや、俺の知ってる『』じゃなかったから…。」


「そうなん?」


「そうだよ。だって、家康は全然動かないし、『首は討ち捨て令』なんか愚策過ぎるし…。」


「あ~あれな。あれ、何?首実検?あれ、かなんて。ほんまに。」


「…。だから首は討ち捨て令を出したのか?」


「そやで。」


「一緒だ。ははっは。」


「そうやったん?あれきっついなあ。」


奇しくも先の大戦での首は討ち捨て令は現代人二人の恐怖によって指令されたものであり、それが戦況を、歴史を大きく変えていたのであった。


「それに、お前の関西弁…。」


「せやねん。俺が何か言うと、皆怪しがるからな、もう喋らんとこ思うて。」


「それに、あの躓き癖。よく廊下でこけてたからな。」


「ははっは。癖は『夢』でも一緒なんやな。」


と、島森は笑う。


「ははっはははは。…!」


島森の真顔に変わる。


「おい、津久見。『夢』だよな。これ。」


「だと、信じたい…。」


「それやったら、もうええかな。戦国時代楽しめたし。」


「気楽だな。」


「というより、もう人の死体とか見たないねん。」


「それは俺もだ。」


「じゃ、そろそろ起きようぜ。お前も授業あるやろ?」


「…うん。まあ。」


「どないしてん。嫌なん?」


「いや、夢なら醒めてほしいと、ほっぺをつねったりした。それに今日は色んな人に殴られたり、気絶させられたりしたけど、その度、夢が終わると思ったが、一向にこの世界のままだ。」



「ほんまかいな。」



島森は愕然とした。天井を見上げ、



「じゃ~ほんまに、わしら戦国時代に…。」



と、嘆いたが、すぐに津久見を見てまた言った。



「ちょ、もう一回試そや。お互いどつきあお。」


「え?」


「それでもあかんかったら…。」


と、島森は左手を津久見のほっぺに添えた。


「ほら、お前も。」


「え…。ああ。」


津久見も島森のほっぺに手を添える。


「せ~ので行くで。」


「うん。」


「せ~の…!」



と、お互い添えた手と反対側の手でお互いの顔を勢いよくびんたした。



「ぱちーん!!!」



三重塔に威勢の良い音がした。



「痛った~~~。」


と、島森が言い、周りを確かめる。



「うん。何も変わってへん。………。って、あかんやん!!!」


と、殴られた頬を労わりながら言う。


すると、外から声がした。


「殿!!!今の音は!!!大丈夫でございますか!!??」


「殿!!???何かありましたか???」


と、三重塔の扉が開く音が下からしてきた。


左近と、直政が心配で入って来たのである。


階段を登る音がして来た。


「あかん!」


と、島森は言うと、津久見を見る。



津久見は泡を吹いて気絶していた。








第25話 完

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