第24話  密会

石田三成と、徳川家康。


今、この関ヶ原での戦において、両軍の総大将が、真禅院の三重塔の前にいた。


西軍代表の三成の提案で、家康と二人での対談を申し込んだ。


が、本多正信に到底聞き入れらるわけも無く、


「それはさすがに。ねえ殿。」


と家康に問うと、家康は首を横に振った。


「え!!!お聞き入れなさるのですか!?」


と、正信は耳を疑った。


しかし、家康は頭を振るだけだった。


終日行動のおかしい家康に少し嫌気のさしつつある正信は


「勝手になされよ。」


と、そっぽを向いたことで、今ここに二人だけの対談が実現しようとしていた。



「殿…。」


左近と喜内は心配そうに声を掛ける。


「大丈夫ですよ。左近ちゃんに喜内さんもちょっと休んでいてください。時間もありませんので。」


(ちゃん…?)


家康は、三成を訝しめな目で見た。



「あ。それに左近ちゃん。」


と、左近を呼ぶ。


「は。何でしょうか?」


「忍とか入れないでね?」


「なんと?まことに二人だけでお話になられるという事ですか??」




「だからそう言ってるでしょ。」



「むむむ…。」


「ね、さん。」



「…。」


家康は津久見の顔を見るだけで答えない。


「そちらも忍無しで。お願いしますね。」


「…。」


コクっ!と家康は顔を縦に振る。



「では、私めがご案内致します。」


と、住職の彩里が、二人を三重塔に誘う。



彩里を先頭に、津久見・家康と続く。



「おっ。…!」



と、家康はまた、三重塔の段差に躓いた。



(……。)




津久見はそれを見て何かを考えている。




《ないふ》殿、大丈夫でござるか」



「…。」


津久見の気遣いにも家康は無言であった。



トントントンと、階段を登ると、一つの部屋に着いた。



三重塔の最上階にある部屋であった。



「それでは、私はこれにて。」


と、彩里は出て行った。


二人は対峙する様に座った。



「…。」



「…。」


沈黙が流れる。


「ぴゅ~~~~」



と、外からトンビの鳴き声がした。



「それでは私から。内府殿は何故この戦を仕掛けてまいりましたか。」


「…。」


「太閤様のご遺言では、秀頼様を五大老で支えて行くことになっていましたよね。」


「…。」


「前田利家様がお亡くなりになられてからの貴方様の行動は、あまりにも、太閤様のご遺言に背いてらっしゃられる。」


「…。」


「そんなに天下が欲しいのですか?」


「…。」


「…。」


「…。」


また沈黙が流れる。


津久見はまた言う。


「では、そんなにヒトを殺したいのですか。」


この質問に対して、家康は津久見の顔を見て、


頭を何回も横に振った。


「それでは何故?」


「…。」


(戦の理由も答えず、ここ最近の所業も無言を通す中、今の問いには頭をこうも振るとは…。)


(…。………………。)



(…。…もしかして…。やっぱり…。)



津久見少し家康の側に寄ってマジマジとその顔を見た。



家康は驚き、後ろに反り返りそうになる。



津久見は座り直し、言った。


いや、唄った。




「六甲~おろしに~…♪。」





突然、六甲おろしの冒頭を鼻歌に似た声で歌い始めた。




「颯爽と~」



!!!!!!!!!!!!!!!



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




その続きを歌ったのは、






家康であった。



第24話 完

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