第26話 時間がない!決めないと!

「殿!!大丈夫でございますか!」


足音が近づく。


「御免!」


ドン!と扉が開かれる。


左近と直政が心配そうに中を覗く。


中には、対峙して座る二人がいた。


「うん?何じゃ左近。」


と、津久見は何も無かったように言う。


「いや。その…申し訳ございませぬ。」


と、言うと三成と家康の顔を見る。


家康の右頬は赤く腫れていた。


三成を見てみると、両頬が赤く腫れていた。


「殿…。大丈夫でございますか?」


「うむ。」


その問答を聞いていた直政が言う。


「治部殿。時間がもうございません。あと15分程で話を付けて頂かなければいけませぬ。」


「直政殿。承知いたしました。」


と、答えると、目で出て行くよう伝える。


「それでは…。」


と、二人は出て行った。


左近と直政の足音が遠くなるのを、二人は確認すると島森が言った。


「あぶな。大丈夫やったかな。」


「うん。多分ね。てか、お前殴ったのね。」


「いや、あんな急に気絶するけ…。」


「いや、ありがとう。それより…。」


「時間やな。」


「うん。時間がない。どうするか」


「夢じゃないとしたら、この後どうなるん。歴史は。」


「…。」


津久見は目を瞑って考え出した。


(歴史では、三成はこの戦に敗れて処刑される…。家康は大坂の陣を経て、豊臣家を滅亡させ、幕府を作り…)


「石田三成って、最終的にどうなるんやったけ?」


家康の姿をした、島森が聞く。


「関ヶ原の戦いに敗れて、六条河原で処刑だよ。」


「え?えぐ!って、事はお前…。」


と、島森は首を斬るような仕草をしながら言った。


津久見はコクっと頷く。


「あかん。そんなん。」


「でも、歴史はそうなんだ。」


そんな中、外から声がする。


井伊直政の声だ。


「殿。もう時間がございません!」


「やばいな。外が騒ぎ出したぞ…。」


「どないする。もう戦はしたないし…。」


「戦をせずに済む方法…。簡単な事だ…。」


「何や?」


「和議だよ。」


「和議?」


「ああ。仲直りだ。…ただ。」


「ただ?」


津久見は立ち上がり、部屋の窓から外を見ながら続けた


「この関ヶ原の戦いっていうのは、各大名家の勢力争いなんだ。そんな中、和議をすると言えば、誰も納得しない。」


島森も立ち上がり、部屋を歩き回る。


「そやな…。あの福島って奴はまず食い下がってきそうや…。」


と、困り果てた顔をする。


「いや。お前は大丈夫だ。多分。」


「なんでや?」


「お前は五大老の一人。内府様と呼ばれる男だ。どうにか演技をかませば、諸将は納得させれるはず…。問題は…。」


「お前か。」


「ああ。俺は豊臣家の家臣に過ぎない。この関ヶ原の戦いでも、西軍の総大将は、大阪城にいる毛利だ。和議を結んだとしても、俺の立場は危うい…。」


「どないすんねん。」


二人はまた座り対面する。


すると外からまた声がする。


「殿!!!時間でございます!」


左近の声だ。


左近と、恐らく直政であろう二人の足音がしてきた。階段を登り始めている。


「あかん。津久見。来るで!」


「うん。俺は俺でどうにかする!お前はどうにか諸大名を説得しろ。お前の周りには良い家臣が多い。そいつらとうまく話し合って…」


階段を登る音が近付く。


「分かった。和議やな。」


「ああ。でも血気盛んな奴らはこれに納得しないかもしれない。納得しない奴らはまた戦を始めるかもしれない。だから…。」


「だから、なんや?」


津久見は深呼吸すると言う。


「両軍、侵略しないよう、国境を作る。」


「国境…?」


「ああ。それで、どうにか上手い事、現段階の石高と見合う領土を分け与えるんだ。それで、どうにか国作りしていくしか、俺らの生きる道は無い…。」


階段を登る音が更に近づく。


「ああ、でもどこを国境に…。」


「淀川なんてどうや?」


「だめだ、西過ぎる。」


「ん~…。」


「日本を二つに分ける…。」


二人は考える。


ふと思いついた様に島森が口を開いた。


「天竜川なんてどうや?前は電圧の分かれ目は天竜川やったでな?」


「天竜川…。」


(悪くない…。天竜川を挟んで、どうにか領国経営していくか…。)


とうとう足音は3階の廊下にまで達している。


「天竜川にしよう。それで三か月毎の1日に天竜川のほとりで逢う。」


「おう。それ、ええな。」


「お前の関西弁気を付けろよ。」


「ああ。そやったな。」


ドン!と、扉が開き左近と直政が入って来た。


「殿、諸将が騒ぎ始めましたぞ!」


と、左近が言う。


家康と、三成は正座で対峙していた。


三成は、左近の方を見ると。


「そうですか。分かりました。こちらも意見がまとまりましたので、行きます。」


と、凛とした顔で言う。


「さあ、内府殿、行きましょう。」


「うむ。」


二人は立ち上がり、左近と直政を分けて部屋を出て行った。


歴史が大きく変わり始めた。


第26話 完

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