第13話 二つの咆哮

「おら!もっと声を出せい」


義弘が叫ぶ。


薩摩兵は


「きえ~~~~!!!」


と、なお叫ぶ。


「違うわ!こうじゃ」


と、諸将の前へ出て両手を腰にやると、今にも後方に倒れるほど身を反らし叫ぶ。


「きえ~~~~~~~~~~~~!!!」


1500の兵を合わせても敵わぬ程の、芯のある声だった。


「ほれ豊久。おぬしも」


と、弟の島津豊久に笑いながら言う。


「殿…。何故、このような…?」


「ええからせえ」


「はあ」


と、訝しめな表情で、義弘の前に出る。


「ほれ太鼓!」


と、義弘が陣太鼓を促す。


「ドンドン!」


「きえ~~~~!!!」


「ドンドン!」


「きえ~~~~!!!きえ~~~~!!!きえ~~~~!!!」


もう躍起である。


それを見て義弘は大声で笑う。


「それで良い。それで良い。ほれ続けよ。」


と、諸将に伝えると、視線を松尾山へ向ける。



「聞こえるか!治部よ!!そこにおるのじゃろ!?約束は守ったぞ!!」


と大声で叫び


「はははははは。」


と、笑いながら椅子に座り、諸将の声出しを見てニコニコしている。


(さあ、治部よ。次はどうする。)


そんな薩摩兵の陣を見ている小早川秀秋は震えた。


何故、彼らが叫んでいるのかは分からない。


だが先程の三成の『』の言葉と、鬼気迫り、まるでこの戦を楽しんでいそうな義弘の笑い声…。


秀秋は自分の身体が熱いのを感じた。


「なんじゃ…。この想いは…。」


一度は太閤秀吉の跡継ぎとして、その前途を羨望のまなざしで見られいた時もあったが、秀吉に子ができ、小早川家に養子となった。


そして小早川家の大将として今ここにいる。


自分の意志で選んできた道ではない。


でも今は違う。自分の中に流れる熱き想いをぶちまけたいと思った。


「うお~~~~~~~~!!」


「うお~~~~~~~~~~~~~!!!」


と秀秋は叫んだ。叫んだ後の顔は、精悍な青年若大将の顔であった。


義弘は遠く松尾山の咆哮が聞こえた。いや、聞こえたというより感じた。


(ふっ。小早川のぼっちゃんかの。いっちょ前になりよった)


と、また笑った。




秀秋の咆哮を後方で聞いた津久見は振り返った。


秀秋が近付く。


「治部殿!何か清々しいですぞ!」


「左様でございましたか!良かったです。」


「して、私は如何しましょう?徳川本陣を攻め込みまするか?」


秀秋の目はキラキラしている。


「…。いや、金吾殿。良いのですな。」


「うむ。」


「そうですか…。それでは松尾山からゆっくりゆっくり武装して、鬨の声を上げながら降りて行ってください。」


「ふむ。してどこを攻める?」


「どこも攻めません。」


「え?それはどういう…?」


津久見は少し黙り、秀秋の目を見て、


「私はここに来るまでに幾多の死体を見てきました。首は切られ、自分の飛び出した内臓を集める兵。その兵は『おっかあ』と、最期の言葉を発して息絶えてました。」


「…。しかしそれが戦と言う物でございませぬか?治部殿。」


「はい。でも私は戦の無い世を作りたいと、願うのです。亡き太閤と同じように。」


「…。左様でございますな。しかし、家康公は和議なぞ…。」


「はい。でも、全力を尽くします!金吾殿は松尾山から下りて、鬨の声を上げ、徳川の上空にでも発砲しちゃえばいいでしょう。高をくくった家康はさぞ驚くでしょう。」


「…。はあ。まあ。」


「そいう事でお願いします。」


と言うと、津久見は足早に左近たちの元に戻る。


程なくすると、左近と平岡と合流した。


「殿。お待ちしておりましたぞ!大事ございませぬか?」


「うん!秀ちゃんも大丈夫。」


「秀ちゃん?」


「行くよ!」


「はあ。」


津久見はシップにまたがると、次の手を考えていた。


(戦を止めるには…。)


第13話 完

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