第14話 下手な戦
シップの上で津久見はずっと考えていた。
(戦を…。止める…?)
歴史において「たられば」は、ただの空想に過ぎない。
しかし今、津久見はその「たられば」に直面している。
小早川へ「歴史が変わり始めた」と伝えたはいいが、それが本当に正しいのか…。
全ては自分が、石田三成となった自身が処刑されたくない。
という、ただの保身なのではないか。
「たられば」で、もし石田三成が勝っていたら…。
そんな論争は何年も前から歴史ファンの格好の論議テーマである。
その岐路に今自分がいる…。
そして少しづつこの大戦の戦況を変えつつある…。
(本当にそれで良いのだろうか…。)
しかし、津久見が感じる違和感もあった。
一つ目は、左近と吉継が驚いていた、東軍の「首は討ち捨て」
(確かに二人の言うように、おかしい。現に、朽木・脇坂軍は困惑しその攻勢が緩んでいるというし)
二つ目は、徳川の本隊が動いていないという事。
(所説はあるが、俺が知っている関が原の戦では、叱咤激励の意も込めて、家康はその陣を桃配山から前進させてるはずが、左近ちゃんの報告だとその様子はないというし…)
(なんでだ…。家康は何を考えている…。)
やがて、三成の本陣に三人は着いた。
「シップ!お利口だったね!ちょっと休んでね!」
と、津久見はシップの首を撫でてやる。
シップは嬉しそうにいななく。
津久見と左近が陣幕をくぐろうとすると、平岡は陣幕の前で見張り役となる。
「平岡ちゃんも入ってよ。」
「え?」
「休もう。疲れたでしょ。」
「いえ。私は…。」
「大丈夫、大丈夫、さあ入って。」
と、津久見に腕を掴まれ陣幕内に入れられた。
「と、殿…。」
「さ、そこの椅子にでも座って休んでください。」
「はあ。」
と、平岡は言いながら、左近をちらっと見る。
左近は無言でうなずく。
「では…。」
と、恐る恐る椅子に座る。
「さて、殿如何いたしましょう。」
「ん~。少し状況を整理したいなあ。」
「そこにつきまして、私目の
と、左近が言うと、そとから馬の音がして、伝令が走って入って来た。
「ご報告にございます!!朽木・脇坂隊撤退開始!!!」
「おお!」
左近が言う。
3人がその男から、また視線をお互いに向けた時、知らぬ間に左近の横に一人の男がいた。
「わっ!!!」
と、津久見は驚き、声を出す。
男は、左近に耳元で何か伝えると、あっという間にいなくなった。
(あ、あれが忍????人知を超えてやがる…)
と、驚嘆していると、左近が話し始めた。
「殿。忍の報告によると、さすがに本陣までは忍べなかったようですが、少し様子が変なようで…。」
「どんな風に?」
「いや、どうも、家康本人が指揮をあまり取っていない様でございます。」
「ん!!?なんでだ?」
「もっぱら、困り果てた側近の本多正信が下知を出しているようでございます。」
「本多正信…?」
(本多正信?確かに重臣だけど…。確か軍略に秀でた人物じゃなかったような…。)
「殿いささかおかしゅうございますな。」
「…。うん。」
そこにさらに新たな伝令が入って来た。
「報告にございます!南宮山の麓に布陣していた、敵方・浅野・山内・池田・有馬隊が南宮山麓より、関ヶ原中央へ移動を開始いたしました!!!」
それを聞くと、左近は立ち上がった。
「何だと!!!???」
「え!?左近ちゃん?」
「殿!どうもおかしいですぞ?」
「ん?何が?」
「南宮山には我らのお味方、毛利・吉川隊が布陣しておりまする。」
「そうだね。」
(あの動かなかった人たちね…。)
「その抑えのはずの浅野らを動かすとは。」
「う~ん。」
「下手すぎまする。戦が。」
「そう…かな?」
「家康の戦とは思えぬ…。もし、これで毛利・吉川が後ろを突けば、もはや家康は袋の鼠でございますぞ!」
(本当だ。左近ちゃんの言う通りだ…。)
津久見は空を見上げた。
(なんかこの戦…おかしいぞ。)
もう昼近くになっていた。
第14話 完
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