第2話 え?ここって…。

「殿!しっかりなされよ!」


左近と言っていた男は、津久見の身体を起こしながら言った。


津久見はよろけながらも、自分の為に用意されてるであろう椅子に腰かけた。


「殿。時は来ましたぞ。殿の号令でこの大戦始まりまする。」


髭もじゃ左近は言う。


津久見は椅子に座りながら、落ち着きを取り戻すために、深呼吸を始めた。


(夢だ。こんなはっきり自分の意識のある夢もあるんだな)


と、徐々に落ち着きを取り戻しながら、そう思った。


(こういう時はあれだな。ほっぺたを…)


と、自分のほっぺを強くつまんだ。


「痛っ!!!」


津久見は大声で叫んだ。


「殿?」


左近がいぶかしめに言う。


(あれ?痛いぞ?リアルな夢…みたいな?)


「大丈夫でござるか?さあ、その扇子で号令を!」


と、左近は椅子の横にある小机の扇子を指しながら言う。


(ん~。全然分からないけど。この髭おじちゃんの言う通りにしておくか。なんだし)


と、小机の上にある扇子を手に取った。


細かい柄の部分まで細工のされた立派な扇子であった。


(かっこいいな~。夢の中だし、いっちょやってみるか)


津久見は扇子を広げると、そこにも「大一大万大吉」と書かれている。


(あ~俺、石田三成なのね。ははは)


と、思うとちょっと気分が良くなってきた。


「人間五十年~下天のうちに~」


と、高ぶる高揚感の中、織田信長が本能寺の変の際に舞ったと言われる「敦盛」を舞ってみる。


「殿!!!何をしておられますか!!!」


と、左近は怒気を込め迫って来た。


「ごめんなさい!」


津久見は両肩を上げて驚き謝った。


と、その時であった。


「パーン!!パーン!!」


遠くで、けたたましい銃声が聞こえた。


「ひっ!」


と、初めて聞く銃声に津久見は驚き、椅子の裏に隠れた。


左近は状況を見に陣の前方に出た。


「ぬぬぬ。」


と、小声で言った。


すると馬の足音が猛スピードで近づいてくるのが、津久見にも分かった。


「申し上げまする!」


やって来た男は馬から降りると、津久見のいる陣幕に入って来て、片膝をつきながら


「敵軍。井伊、松平隊!自軍宇喜多様へ発砲!のち、開戦されました!」


口早にそう言うと、陣幕を走って出ていった。


「始まったか。先手を取られたましたぞ。」


と、外の様子を見てきた左近が陣幕に入って来た。


津久見は口をポカンと開けながら聞いている。


「家康め…。」


と、左近が呟く。


(井伊が宇喜多に発砲?戦が始まる?この髭のおじちゃんは左近っていうのね)



津久見は、一つずつ状況を確認していく。


(で、今~左近ちゃんは家康って言ってたから…)


(…………。)



「って、今俺関ヶ原にいるの~~~?!」




と叫ぶと、また白目をむいて後ろに倒れてしまった。



第二話完

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