恋と呼ぶには烏滸がましい

早河縁

第1話

 恋と呼ぶにはあまりにも烏滸がましい。

 そんな体験をしたことがある。

 けれど、まあ、個人的な見解として、恐らくあれは恋だったのではないかと思うのだ。


 周りから囃され噂されるるうちに、なんとなく意識するようになって。

 それで、「こいつは私のことが好きなのか? そこのところ、どうなのだ?」と気にするようになったことがきっかけだった。

 この時点でだいぶ、烏滸がましい。

 あまつさえ、自分が相手を好きであると言う確証もないのだ。なんとなく好きかも。その程度。

 それでも、付き合ってしまえば更に好きになると言うもので。

 交際に至るまでのやり取りは通話で行われた。

「カレーって好き?」

「好きだね」

「じゃあゲーム好き?」

「好きだよ」

「じゃあ私は?」

「うーん」

 なんだこいつは、と驚きを隠せなかった。

 日頃、散々べたべたしてきておいて、好きじゃないとでも言うのか。髪の毛を触ったり、その他のスキンシップが激しいではないか。

 見たぞ。ネットに転がっている恋愛コラムで。

 スキンシップは好意の証だと。

 そんなことを考えながら、私は困惑していた。

 どうにかしてこいつから「好き」の一言を引き出してやろう。そんな風に思って、意固地になっていた気もする。

「好きとかよくわかんないけど、それでもいいなら付き合う」

 最終的にはそんな言葉を引き出して、交際の了承を得た。

 なんか……なんか、癪だった。

 けれどまあ、どうせ自覚がないだけで好きなんだろう。都合よく捉えることにした。

 それからも大して変わらない日々を過ごしたが、付き合って早々、私は家庭の事情で他県に引っ越した。超絶遠距離になった。

 ただでさえ「恋愛として好きかどうかわからない」と言うようなことを言われているのに、そんなことって。しかし現実は変わらない。


 超絶遠距離で私たちは交際を続けた。

 しかし、連絡は待てども待てども来ない。時々私からスカイプのメッセ―ジを送るくらい。

「なんで連絡寄越してくれないの?」

 そう訊ねると、彼はびっくり仰天な答えを導きだしてきた。

「学校で話してたら話題もあるけど、学校違ったら話すこともないじゃん」

 学校違ったらなおさら話す必要があるのでは? 付き合ってるよね? 一応だけれど。一応、男女関係にあるのよね?

 そのように反論したが、彼は聞く耳を持たなかった。

 なんか……もういいかなあ。

そんな風に思って、半年後には破局していた。いや、半年も持たなかったかもしれない。

 それさえ覚えていないくらい昔のこと。

 甘酸っぱさのかけらもないような思い出話。


 今、その彼ともつながりがある。なんなら過去の恋愛話などを通話でしながらこれを書いている。

 私は今、結婚して子供もいるが、まあ、あれらの一連の流れは一応、一応、思い出として昇華して大切にとっておこうと思う。


「ところでさあ、小学校の時の恋愛話とかで『たぶん好きだった』って人がそこそこいるのに、私のことを『好きかどうかわからなかった」って、なんか癪だわ』

「ははは」

「はははじゃないよ」


 これが、恋と呼ぶには烏滸がましい話。

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恋と呼ぶには烏滸がましい 早河縁 @amami_ch

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