第29話 逃げたくて

決まった訳では無い。

確かにその通りかもしれない。

なーちゃんは笑みを浮かべながらも悲しげな感じで俺達を見てくれた。


俺は.....そうか。

りーちゃんが好きだったんだな、と。

そう思えた。

恋心が変わっていたんだな、って思える。


それから俺達は撮影会をしてから。

そのまま帰宅の途に着いた。

因みにこの場にりーちゃんは居なかった。

りーちゃんは整理したい、と言いながらそのまま席を外したのだ。

揺れる電車の中俺はなーちゃんに聞いた。


「.....なーちゃん。いつから気が付いていたんだ」


「.....そうだね。.....もう結構前になるよ。引っ越して来た時に.....気が付いたって感じだね」


「.....そうなんだな」


「うん。.....でもね。私はさっきも言ったけど負けたって思いではないよ。奪い返してみせる。奪い愛って感じだね」


そう言いながら笑顔を浮かべるなーちゃん。

俺はその顔を見ながら赤面しつつ。

そのまま電車の窓から外を見る。

するとなーちゃんが寄り掛かってきた。


「.....スースー」


「.....疲れたんだな」


俺は考えながらなーちゃんを見る。

なーちゃんはスースー寝息を立てて寝ていた。

それを起こさずに俺はそのままなーちゃんと共に帰って来る。


自分の居場所に、だ。

すると目の前のアパート。

そこに凛子が居た。


「凛子。どうしたんだ?」


「あ。お兄ちゃん.....あ。その.....えっと」


「.....?」


「連絡が取れないんです。お姉ちゃんと」


「.....え?」


俺は驚愕しながら電話でりーちゃんに掛ける。

しかし電話に出なかった。

俺は!?と思いながら、なーちゃん。りーちゃんに連絡してくれないか、と頼む。

するとなーちゃんは、分かった!、と直ぐに連絡してくれた.....のだが。

電源を切っている様だ、繋がらない。

嘘だろ。


「.....お、お姉ちゃんどうかしたんですか?」


「.....ちょっとあってな。.....だけどそれでもおかしいだろ。いきなり繋がらないなんて。さっきまで連絡出来ていたのに」


顎に手を添える俺。

そうしてから俺達は手分けして探す事にした。

バラバラに分かれて探す。

そして俺が行き着いたのが.....漁港だった。


3キロ程先に海があるのだ。

とは言っても小さな海。

漁港と言える。

馬鹿だな俺も.....こんな場所に来ても.....。


「.....!」


すると潮風を感じる漁港の先の岸壁。

そこにりーちゃんが座っていた。

俺は最後の力を振り絞ってから、りーちゃん、と声を掛ける。

猛ダッシュした為に体力が無い。

馬鹿野郎だな俺も。


「.....え.....さーちゃん」


「.....何やってんだ馬鹿。お前な。いきなりスマホの電源切るとか。心配どころの騒ぎじゃないぞ」


「.....御免なさい」


「何がどうしたんだ」


「.....私.....お姉ちゃんに合わせる顔が無くて」


どういう意味かと考えたが。

察した。

成程な、と思いながら俺も岸壁に腰掛ける。

それからりーちゃんを見る。

りーちゃんは涙を浮かべていた。


「.....私が選ばれて良かったけど.....でも何だか複雑で.....」


「そういう事か。成程な」


「.....お姉ちゃんに告白したのにね。最初に君が」


「.....そうだな」


「.....なのにこれで良いのかなって思ったら気持ちがグチャグチャになった」


涙を流しながら俯くりーちゃん。

最初は私が勝てば良いと思ってたの。

だけど.....何だか途中から.....お姉ちゃんに申し訳なくて。

だから逃げたくなったの、と言うりーちゃん。

俺はその言葉に溜息を吐く。


「だそうだ。なーちゃん」


「.....え?」


背後を見ると。

かもめと一緒な感じでなーちゃんと。

そして凛子が現れた。

俺はその姿を見ながらりーちゃんを見る。

りーちゃんは涙を浮かべていた。


「.....凛花」


「.....何?お姉ちゃん」


「.....私ね。凛子と話したの」


「.....うん」


「.....私はね。.....凛花。貴方に幸せになってほしいけど。でもまだ負けた訳じゃ無いって思ってる。だからこれからだって事を分かち合った」


「.....お姉ちゃん.....」


すると凛子が、お姉ちゃん。.....過去がどうであれ選ばれたのはお姉ちゃんだよ。私だって陰ながら好きだったんだから。選ばれたの誇って良いと思う、と涙を浮かべてからりーちゃんを見る。

りーちゃんは、涙を流した。


「.....お姉ちゃん。本当に良いんだね?これで」


「.....私は良いって思ってる。.....凛花がここまで考えてくれた事にも感謝しか無い。だから私は逃げてほしくないって思ってる」


「.....お姉ちゃん。幸せになって」


まあでも負けたつもりは無いけどね、と笑顔を浮かべるなーちゃん。

俺はその姿を見ながらりーちゃんを見る。

りーちゃんは号泣し始めた。

嗚咽を漏らす。


「.....よし。じゃあ帰ろう」


「.....そうだね。お兄ちゃん」


「.....凛花。帰ろう」


手を伸ばすなーちゃんの手を頷くりーちゃんは握ってから。

そのまま漁港をゆっくり歩いた。

それから帰って行く。


俺達の影が.....応援する様に追って来ていた。

そしてこの日から。

俺とりーちゃんは以心伝心となり恋人の様な関係になった。

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