第19話 ほあ!?

キス.....をしてしまった。

それもりーちゃんと、だ。

あまりの衝撃に何も言えない。

俺は思いながら.....りーちゃんを見る。

りーちゃんはトイレから戻って来ても何も言えない感じで俯いていた。


「.....」


「.....」


2人の間に沈黙が流れるという感じだろうか。

りーちゃんは赤面したまま何も言わない。

俺はその姿を見ながら水族館の展示物を見る。

様々な生き物が泳いでいるミックスの水槽とか。

そんなのを見る。


するとりーちゃんが足を止めた。

それから俺に笑顔で向いて.....こう告げてきた。

ゴメン。先に帰って良いかな、と。

俺は!と思いながらりーちゃんを見る。


「.....ゴメン.....私.....馬鹿だよね。君には.....いや。.....元でも彼女が居るのに.....何やってんだろ本当に.....帰ってから反省したい」


「.....りーちゃん.....」


「.....上手く言葉に出来ないや」


言いながらりーちゃんは駆け出して行った。

俺はその姿を見ながら追い掛けたかったが何も出来ず。

そのままその背中を見送ってしまった。

その姿を見ていると背後から背中をぶっ叩かれる。

誰かと思えば舘島だった。


「何やってんだよお前は」


「.....いや。お前こそ何やってんだよ。スタッフだろ」


「現像出来たから持って来たら.....全く。女の子を泣かせるたぁ良い度胸じゃねぇか。おおん?」


「.....そうだな。確かにな。.....りーちゃんの想いも複雑なのにな」


「.....ったく。お前という奴は。側に居たから呼んで正解だったぜ」


「は?誰を?」


背後を見ると。

そこに何故か瀬奈が。

どうなっているのだ!?

俺は思いながら、おま!?舘島どういう事だ!、と問い詰める。


「瀬奈ちゃんはお前らを追跡していたんだ」


「.....マジかよ.....」


「.....うん。さーくん」


「.....お前に見られたんだな。瀬奈」


「.....うん。ゴメンね。どうしても2人の様子を知りたくて付いて来ちゃったんだけど.....こんな事になるとは思わなかった」


俺は困惑している瀬奈を見ながら溜息を吐く。

それから、大丈夫。全て俺が悪いと思う、と言葉を紡ぐ。

俺はりーちゃんに上手くサポート出来なかったから、とも。

瀬奈は、そんな事ないと思う、と言ってくる。


「さーくんのせいじゃない。全部いじめっ子のせいだよ」


「.....そうかな」


「.....うん。さーくんが悪いわけないじゃん。さーくんだから」


「.....お前は優しいな。瀬奈」


性格も変わろうと思っているからね、と瀬奈は言いながら黒髪に触れる。

俺はその姿を見ながら顎に手を添える。

そして考えていると。

舘島が、なぁ。イルカショー見に行かね?、と言い出した。

何を言い出すんだコイツは。


「お前らしんみりし過ぎだ。凛花ちゃんを追いたいかもだけど凛花ちゃんは一人にしておいた方が良い。その場合イルカショーしかない」


「ぶっ飛びすぎだろ明後日の方角に」


「良いから行くぞ。お前ら」


「.....舘島くん.....」


言いながら俺達は無理矢理、イルカショーを観に行く事になった。

りーちゃんが居ない中で、だ。

それから.....イルカショーの為に椅子に座る。

横並びで俺と瀬奈と舘島で、だ。

つーか仕事しろよ。



「此処のイルカショーはな。はなちゃんっていうイルカが有名なんだ」


「.....ああ。そうなのか」


「そうだぜ。.....何とかイルカだった様な気がするけど」


「名前覚えとけよ」


「良いから。とにかく観て行ってくれ」


それからイルカショーが始まる。

その様子を見てから.....俺はハッとする。

そういやこの場所に八熊先生に連れて来られたな、と。

そして懐かしい思いを抱く。


「ねえ。さーくん」


「.....何だ。瀬奈」


「.....君が八熊先生に救われたのって.....この場所も関係しているの?」


「.....今思い出したけどな。.....俺に対して八熊先生はこう言っていたよ。『元気に居るのも大切だ』ってな。極論だったけどな」


「そっか。.....そうなんだね」


「.....ああ。八熊先生には感謝しか無い」


そうなんだ、と笑顔を浮かべる瀬奈。

俺はその姿を見ながら苦笑する。

それから俯く。

りーちゃんを一人にして大丈夫だろうか。

だけどどう声を掛けたら良いか分からない、と思いながら。


「凛花ちゃんなら大丈夫だよ」


「.....?」


「.....彼女は.....今は1人が良いかもだけど.....」


「.....そうかな」


でも後で.....家に行ってみよう。

思いながら俺はりーちゃんの事を思いながら。

イルカショーを見る。


はなちゃんというイルカが一生懸命にショーをしている姿に。

俺は涙が浮かんできた。

一生懸命にりーちゃんを宥めたけど俺は未熟だな、と思いながら。

それからショーが半分終わった時。


「.....舘島。すまない」


「.....何だ。行くのか」


「ああ。そろそろ良いと思うから。.....りーちゃんの家に行くよ」


「気を付けてね。さーくん」


「.....そうだな」


それから俺は猛ダッシュで駆け出してから。

そのまま水族館を抜けてから。

そうしてから屋敷に来た。

りーちゃんの家だ。

そしてゼエゼエ息を切らしながらインターフォンを押す。


『はい』


「すいません。俺.....じゃない。僕は佐野島です」


『.....あら?裕介くん?お久しぶりね』


「.....そうですね。お母さん」


『あの子ね?あの子なら居ないわ。.....今は公園に行っているわよ』


俺は、有難う御座います、とお礼を言いながらインターフォンから離れ。

近所の公園にやって来る。

りーちゃんが居た。

俺を見てからビクッとする。


「やっと見つけた」


「.....どうしたの。さーちゃん」


「.....お前な。勝手に駆け出すな。どのタイミングでお前を迎えに行ったら良いかも分からんだろ」


「.....そうだね」


「.....キスとかの事でまだ悩んでいるのか」


そうだね、と言いながら座っているブランコをギコギコ動かす。

俺はその姿を見つつ横に腰掛けた。

それから、キスは.....俺達は既にやっていたろ。昔、と言うが。

りーちゃんは、その時とは状態も全てが違うよ、と言い出すりーちゃん。


「私は悪い女だね」


「.....正直、どう話したら良いか分からない。だけど.....これだけは話して良いか。俺達の様子を.....瀬奈が見ていたそうだ」


「.....!.....え.....」


「瀬奈は怒ってないぞ。.....それに逆にこう言っていた。『私より付き合いの長い人がキスを最初にしなくてどうするの』と」


「.....瀬奈ちゃんは優しいね」


そうなる事も予測していたって事だね、と。

言いながらりーちゃんは顔を上げる。

すると、うん、と声がした。

背後を見ると瀬奈が立っている。

俺達は驚愕する。


「瀬奈.....」


「私は負けたくは無いけど。でも.....凛花ちゃんが良い人だって知ってる。だから私はキスする事も別に構わないって思ってる」


「.....瀬奈ちゃん.....」


「そりゃ他の人だったら怒るよ?でも.....あくまで凛花ちゃんだから。.....そして今は私は付き合ってない事にしているから。キスで悩むのは良く無いんじゃ無いかな」


「.....」


俺は瀬奈を見る。

それから、有難うな瀬奈、と言いながら瀬奈を見ていると。

りーちゃんが、じゃあ、と言いながら立ち上がる。

そして俺の背中をドンッと押した。


何す.....、と思っていると。

よろめいた瞬間、俺は瀬奈とキスをしていた。

それも唇と唇が当たる感じで、だ。

瀬奈も真っ赤になっている。


「!?」


「.....!!!!!」


「エヘヘ。これでおあいこだね」


「お前!?りーちゃん!?」


「り、凛花ちゃん!?」


こういうのは2人で分かち合う。

それが当たり前なんでしょ?、と言いながら笑顔を浮かべる。

俺と瀬奈は見合ってから。

そのまま真っ赤になる。


「.....うむ。これで気が楽になったかも」


「.....もー.....」


「.....はっはっは」


結論から言って。

俺は瀬奈ともりーちゃんともキスをしてしまった。

それからその事を舘島に報告すると。

舘島は、そうだな。それがええやろ(憤慨)、と送ってきた。

写真と一緒に、だ。


それは.....俺と瀬奈。

そして俺とりーちゃん。

それから俺とりーちゃんと瀬奈の写真だった。

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