第17話 カップル割とキスと

一緒に住むという事を周りは受け入れている様だ。

大家さんの富子さんに聞いても笑みを浮かべて、知ってるよ、と答えた。

俺は周りがその様に受け入れてくれたのを嬉しく思いつつ。

極論を考えついたりーちゃんを見る。

りーちゃんはモジモジしながら俺の手を見ていた。


「.....繋ぐか?8年前と同じ様に」


「.....そうだね。繋ごっか」


それから俺は手を取る。

りーちゃんの手は暖かな感じで.....そして。

かなり熱かった。


つまり緊張している様だ。

俺はりーちゃんを見る。

りーちゃんの顔は真っ赤になっていた。


「恥ずかしい?」


「.....それはね。当たり前だよね。だって好きな人と一緒だから」


「そ、そうか」


俺は赤くなりながらりーちゃんを見る。

りーちゃんはモジモジして居心地が悪そうな感じだった。

周りもチラチラ俺達を見ている。

それから俺達はその中で近所の水族館にやって来た。

見上げてみるが.....あの日と何も変わってない。


「.....1年の時から変わらないな。やはり」


「その時に私が居れば良かったんだね」


「.....りーちゃんはりーちゃんなりに頑張ってくれてた。だから.....大丈夫」


「そうかな。.....私はみっともなく失語症になっていただけだよ」


それはみっともないんじゃない。

心が抵抗していた証だ、と言いながら俺はりーちゃんの握る。

するとりーちゃんは、そうかな、と笑みを浮かべる。


俺は頷きながら水族館を見上げる。

いわゆる.....吹き抜けアーチのある様なイルカショーのある様な。

そんな感じの出来てから3年しか経ってない水族館だ。

出来て間も無いって感じだな。


「.....ねえ。さーちゃん」


「.....何だ?」


「私の事.....どう思ってる?」


「.....どうとは?」


「つまり.....その。恋人にしたい?」


「.....ああそういう系か。.....御免な。まだ決めれない」


だよね、と言いながら笑みを浮かべる。

良かった、とも言いながら。

何だそれは?、と思ったがハッとした。

成程な、と。

つまりりーちゃんはまだ方向性が決まってないのを安心したんだな。


「りーちゃん。俺は欲張りだけどね。どっちも好きだ。瀬奈も君もな」


「.....だよね。幼馴染だもんね。私達」


「そうだな」


「.....さーちゃん」


歩き出すと直ぐにりーちゃんの足が止まった。

俺は?を浮かべてからりーちゃんを見る。

りーちゃんは胸に手を添える。

それから俺を見上げてきた。

私はどんな形であっても君を祝福するからね、と。


「.....例えば私が選ばれなくても.....君の事を大切に思っている」


「.....りーちゃん.....」


「これは意味深とかじゃないよ。.....私がふと思った事だから。.....君の事は本当に大切だから。だから.....安心して。きっと瀬奈ちゃんも同じ事を思っているよ」


「.....そう言われると気が楽だ。.....有難うね」


「.....うん」


言いながらりーちゃんは駆け寄って来る。

それから俺の手を繋いでから。

そのまま水族館のチケットを買う為に売り場にやって来た。

すると、恋人同士様ですか?、と案内員の方に聞かれる。

な、と思いながら俺は赤面する。


「もしカップル様でしたら本日はカップル割でお安くチケットを提供出来ます。チケットは1枚1000円ですがつまり2枚で2000円ですが800円割引ですね」


「え.....そうなんですか?」


「はい。.....えっとですね。その条件としてこの場でキスをして下さい」


「.....」


「.....」


超無理難題。

俺は思いながらりーちゃんを見る。

りーちゃんは目をパチクリして赤くなっていた。


俺達は周りを見る。

しかし周りには人が幸いな事に居なかった。

ど、どうなる?


「そ、それは頬にキスでも?」


「大丈夫です。キスをしてもらえれば」


「.....だってよ。りーちゃん。どうしよう」


「う、うん」


俺はりーちゃんを見る。

りーちゃんは目を閉じて赤くなっていた。

その姿にまた赤面したが。

この隙と思いそのまま俺はりーちゃんの頬にキスをした。

ふあ、と声が上がる。


「はい。有難う御座いました」


「.....は、恥ずかしいですね」


「あはは.....ですね。でもご参加下さり有難う御座います。実は.....このカップル割には記念品として写真撮影がございます」


「え?」


「はい。この水族館は大きな水槽が特徴的ですがその前で写真撮影です」


「.....だって。りーちゃん」


りーちゃんはぎこちない態度で、う、うん、と返事をする。

まるでロボットである。

なんだこれは?、と思いながらりーちゃんを見る。

りーちゃんは赤くなっていた。


「.....ゴメン。恥ずかしくて。私は.....キスするのは得意だけどキスをされるのは得意じゃない」


「.....そ、そうか」


言いながら俺達はそのまま案内員の方に案内されて。

そのまま奥の中央辺りにある水槽のど真ん中に立たされた。

それから写真を撮るのは別のスタッフが撮りますね、とそのまま入口のスタッフさんは去って行く。

そして奥から出て来たスタッフ。

それは.....舘島だった。


「お?お前は何やってんだ?」


「それはお前だろ!!!!?何やってんだ!?ビックリしたわ!」


「バイトに決まってんだろ。お前。しかし.....まさかキスしたのかお前らは」


「勘違いしないでもらいたいが頬だけどな」


「.....ほほーう?」


「それはギャグかな?」


違うに決まってんだろ。

何を言わすんだ殺すぞハゲが、と言いながら舘島は俺を睨む。

そして、お前な。元彼女が居るんだから気を付けるんだぞ、と言いながら。

カメラを取り出す。


「ったく俺も好かれたいぜ全く」


「お前.....スタッフが今言う事じゃねーよ」


「喧しいわ。.....まあ良いや。そこに立ってくれ」


「はいよ」


因みに1枚1億円な、と言いながらニヤッとする舘島。

殺すぞお前、と言いながら見ていると。

まあ冗談は置いておいてピースな、と言いながら舘島は写真を撮った。

それから、こうしてギャグばかり言っている方が自然体が撮れる、と舘島はニヤッとしながら俺達を見る。


「そういうの得意だよな。お前」


「まあな。.....んじゃ現像は帰る際にな。俺は行くぜ」


「.....おう。お前のお陰で良い写真が撮れたよ」


「そうだな。.....ところで相棒」


「何だよ」


「.....お前は瀬奈ちゃんと凛花ちゃんの2人を幸せにしてやれるか」


言いながら俺を真剣な顔で見てくる舘島。

今更か?とも思ったがそんな舘島に真剣な顔で、ああ、と答える。

舘島は、そうか、と笑みを浮かべた。

いやちょっと待ていきなり何でそんな質問をするんだ。


「お主は女にうつつを抜かしている気がしてな。女の子は大切にしろよ。って.....すまんなそんな説教みたいな」


「.....まあお前は正義深いからな」


「まあお前もお前だからなぁ。.....んじゃ俺は行くぜ」


「.....ああ」


そして舘島は仕事に戻って行った。

俺達はその姿を見送ってから。

りーちゃんを見る。

舘島の言葉に真剣な顔をしていた。


「.....変わらずだね。舘島君」


「アイツはああ見えて色々と考えるからな」


「.....だね」


俺の手を優しく握ってから笑みを浮かべるりーちゃん。

そんな手をそのまま握り返しながら俺は笑みを浮かべる。

そしてそれから.....俺達は水族館を見て回る事にした。


先ずは入口から、だ。

にしても舘島め。

俺に働いている事を話せば良いのに.....。

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