第9話 私の大切なお姉ちゃんだから(改訂)

なーちゃんが帰った後も俺はかなり悶々としていた。

くそう.....!

なーちゃんめ。


頬にいきなりだろうがキスをしてくるなんて.....、と思いながら。

俺は拳を握ってから夕焼けの空を見ていた。

ヤバい.....心臓がドクドクと波打っている。

それにもう直ぐ日が沈むな。

心臓の鼓動が治らない。


「.....」


ピンポーン


「.....ん?宅配便か?.....新聞屋?」


じっと考えているとインターフォンが鳴った。

俺は?と思い立ち上がる。

それから、面倒臭いな、と思いながらもドアを開けると。


そこにポシェットをかるった様なTシャツに短パンの少女が立っていた。

所謂.....今時の女の子風の服装の少女。

ん?


髪の毛は黒の長髪である。

それから少しだけ童顔で吸い込まれそうな瞳の美少女。

15歳ぐらい?の.....。

その少女は俺をジッと見てくる.....ってちょっと待て。

誰なのこの娘。


「.....えっと。君は.....誰?」


「桜田凛子(さくらだりんこ)です」


「.....桜田.....凛子.....ああお前!りーちゃんの妹か!?本当にそれなりに成長したな!?」


「そうだね。お兄ちゃん。当たり前でしょ」


「.....そうそう。お前ってお兄ちゃんって呼んでたよな。俺を。.....懐かしいな.....。ん?ってかお前何しに来たんだ」


「えっとね。お兄ちゃん。.....お姉ちゃんと結婚を前提に付き合ってくれない?」


いきなりそんな事を言わ.....あ?

俺は真っ赤になる。

い、いきなりどういう事だ!!!!!、と思いながら後退りする。


すると凛子は、その代わり矢加部さんともう婚約解消して別れて、と言ってくる。

もう矢加部さん.....じゃなくて瀬奈お姉ちゃんと関わらないで、とも。

その言葉で察した。

成程、と。


「あのな。それは無理な注文だな。.....いきなり来て何を言ってんだ。今の許嫁はあくまで瀬奈.....じゃなくてなーちゃんなんだから」


「お兄ちゃん。私は.....お姉ちゃんの将来を願っているから。だから.....こんなの駄目。絶対に駄目。いくら幼馴染だからと言っても」


「.....凛子.....」


「私は.....お姉ちゃんが大切だから。だからお願い。瀬奈お姉ちゃんと別れて。会わないで。お願い」


「気持ちは分からんでもない。だけどな。それはかなり無理な注文だ。.....それ以外に用事なら受けるが.....」


「.....お兄ちゃんのご飯を作って来てって頼まれた」


ああそうなのか.....。

あのお節介め。

俺は思いながら苦笑する。


凛子は真っ直ぐに俺を見てくる。

それから眉を顰めながら、何でお姉ちゃんを待ってくれなかったの、と言ってくる。

痛いところを突くなコイツ。

でも昔からこんな感じだったよな.....。


「確かにその通りだ。だけどな。.....7年も音沙汰が無かったんだぞ。お前の姉ちゃんは戻って来てくれるとは思って無かったんだよ。だけどそれでも待っていたぞ。ずっとな.....。だけど日が経って世界が動いたんだ。仕方がなくこうなったんだ」


「.....そうなの」


「そうだ。.....だから決して待ってなかったわけじゃないんだ。分かってほしい」


「.....分かる.....分かるけど.....私のお願いを叶えてほしい」


「それは無理だって言ってんだろ。俺はあくまでなーちゃんを優先する」


「.....お兄ちゃんの馬鹿。アホ。トンチンカン」


言いながら頬を思いっきり膨らませてプンスカ言いつつ俺の部屋にづかづかと入って来てからそれから俺の台所に食材を置き始める。

無言で、だ。

俺はその姿に苦笑しながらそのままゆっくりドアを閉める。

そして、何を作るんだ、と聞く。


「親子丼!」


「.....そうか。何か手伝える事はあるか」


「無いもん」


「.....そうか」


「ご飯作ったら帰るし」


「.....まあ.....そうだな。夜遅くなるしな」


俺は苦笑いで横から三つ葉をちぎったりと手伝う。

無言ながら必死の思いが伝わってくる。

その姿をチラ見しながら俺は目の前の作業をする。


まな板とかを出してやった。

この前、りーちゃんが綺麗にしてくれたまな板とかを。

その想いに応えられないもどかしさを感じながらもそのまま買い物袋から何も出来ないかもしれないが卵を取り出した。


「.....ねえ。お兄ちゃん」


「.....何だ?」


「.....大切なの?」


「そうだな。大切だな。.....お前の気持ちは痛い程に分かるが」


「.....お姉ちゃんをもっと大切にしてほしい」


何言ってんだ。

お前馬鹿か。

俺はお前の姉ちゃんもとても大切だよ。

とてもとても、な。


言いながら軽く凛子の額をデコピンして笑顔を浮かべる。

それからゆっくり頭を撫でる。

まだ中学3年生の.....女の子の頭を。

すると手で弾かれた。


「もう。子供扱い.....。でもお兄ちゃんは瀬奈お姉ちゃんを選んだ。.....そんなの嫌」


「.....分かる。.....お前の気持ちは本当に痛い程に分かる。だからこそ。俺は今は婚約するとかはどっちも決められない」


「お兄ちゃん.....」


「.....御免な。だからこそ大切だから。会わない訳にもいかない。いきなり友人を嫌って無視したらお前だって嫌だろ?」


「.....だね。確かに.....」


言いながらグスッと涙を浮かべる凛子。

それから涙を流して拭う。

でもお姉ちゃんはあんな事があったから、と言う。

言っているのは野犬に襲われた時の話だろう。

まだそれで犬に対してはPTSDになっているらしいから.....な。


「.....お姉ちゃんを心から守ってほしい。お兄ちゃんに」


「勿論.....全ての約束は守る。俺は.....大切だから。お前の姉ちゃんもみんな大切だ。だから守るよ」


「.....うん」


「.....仮にも元許嫁だった女の子だ。これ以上の理由は要らない」


「.....だね」


そうしていると。

そう言えば渡したいものがあった、と何かを取り出す。

それは帯の付いた.....札束だった。


丁度、帯には印刷文字で100万円と書いてある。

ぎっしりの福沢諭吉だった。

なんだこれは.....。


「これはこの前のお礼だって。お母さんとお父さんから」


「そんな馬鹿な!?極端過ぎるだろ!相変わらず!」


「私からもこれは受け取ってほしい」


「馬鹿言えお前.....」


これ持ち歩いていたのか!?危ねぇ!

こんなピン札の100万円をいきなり受け取れってお前な!?

本当に相変わらずだなりーちゃんの家庭は、と俺は額に手を添える。

それから盛大に溜息を吐いた。

全く、と思いながら受け取ってから凛子の手の中に100万円を収める。


「こんな極端なものは受け取れない。.....でもその代わりにお前を強く抱き締めて良いかな」


「.....え?!ちょ.....何で?」


「何でってそれは.....お前が泣いているから」


「.....うん」


それから許可を貰ってから。

俺はそのか細い身体を抱き締める。

そしてもう一度だが頭を撫でてやった。


嫌がる素振りは見せない。

その代わりに言い聞かせた。

大丈夫だからな、と言いながら。

すると本音が遂に漏れた。


「お兄の馬鹿。こんなにずっと優しいやん。何で!?」


「.....うん」


「.....もう。嫌い!嫌!嫌い!!!!!」


「うん。そうだな」


そして暫く抱きしめてから離れてそのまま凛子を見る。

凛子は涙を拭ってから複雑な顔を見せた。

だけど少しだけ経ってから笑みを浮かべる。

俺は柔和になる。

その顔は.....吹っ切れてはないがそこそこな感じだった。

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