第7話 矢那の呼び出し(改訂)
なーちゃんがとても大きな決断をした。
俺と(恋人)としては別れてりーちゃんに恋するチャンスを与えるという。
あまりの決意に驚いたが.....。
そう言うなーちゃんの決意の背中を応援する事にした。
教室にて。
「来週ってなんていうか期末考査だよね」
「.....そうだな。.....まあそれなりには面倒臭いけどな」
「ねえ。何処かでテスト勉強しない?」
「それって図書館とか?」
「そうだねぇ」
りーちゃんはトイレに行っている。
俺達はそんな中で会話していた。
そうしているとピンポーンといきなり放送が流れた。
それから、あーもしもし?、と高い声の女子の声がしてくる。
何だ?、と思いながら教室のザワザワを見つつ見ていると。
こんな放送になった。
『お呼び出しします。佐野島裕介くん。職員室へ来なさい』
「え!?」
『私、矢加部矢那が直に呼び出しています。今直ぐに来なさい。そうしなければ死にますから。いや来なかったら殺す』
「学校放送で言う事じゃねぇ!!!!!」
俺は思いっきりツッコミを入れるが。
男子生徒達から、マジに何だあのゴミクズ、とジト目を食らった。
特に舘島の目が眉を顰めて冷たい.....。
俺は盛大に溜息を吐きながら避ける様に立ち上がる。
するとなーちゃんが不安そうに聞いてきた。
「え.....何の呼び出しかな」
「分からん。お前の姉さんはやる事なす事メチャクチャだからな.....」
「ま、まあそうだね.....うん」
「.....全くな」
思いながらそのまま机を外にでもほっぽり出されそうなぐらいの勢いの教室を後にしてからそのまま呼び出し元の職員室に向かう。
それからドアを開けると。
そこに矢那先輩がニヤッとして立っていた。
仁王立ちで、だ。
「いや.....何すか」
「来たな?私の下着を見た貴様に渡したいものがある」
「この場で言う事じゃねぇ!!!!!」
「まあ落ち着け。.....貴様に渡したいもの。それはジューンブライド体験チケットだ」
「.....」
何?.....うん?
聞き間違いかな?
俺は思いながら眉を顰めて見るが。
矢那先輩はマジな顔で俺を.....相変わらずの笑顔で見てくる。
貴様なら似合うだろうと思ってな、とも言う。
何故俺にそんな。
ってか呼び出しってそれかよ。
それにアンタ.....俺は女じゃない。
「俺に女装でもさせるつもりですか」
「馬鹿か貴様は?」
「じゃあ何ですか。俺を彼氏役に?
「アホか貴様は」
「じゃなんですか。誰と行くんですか」
「貴様に渡すんだから当然、瀬奈と一緒となるだろう」
俺は苦笑いを浮かべる。
そして、成程、と顎に手を添える。
それから矢那先輩を見ると。
こんな事を言ってきた。
悲しげな顔で、だ。
「私には彼氏が居ない.....からな」
「.....あー.....成程ですね」
「べ、別に居ない事を嘆いている訳ではない!これは何というか勘違いした友人から貰ったものだが貴様に使ってもらいたくてな!.....ワッハッハ.....」
「.....ご愁傷様ですね」
貴様.....今何か言ったかな?、と俺をギロッと怒りの目で見てくる矢那先輩。
俺は冷や汗をかいてから、いや、な、何でもないです、と答える。
すると矢那先輩は、そうか、と言いながら、まあ冗談もそこそこに、とチケットを渡してくる。
これは1カップルの1日限定みたいだから使ってくれたまえ、と言いながら。
あー、そうなのか.....うーん。
「.....ふむ」
「.....ちょっと待て。何でそんな困った顔をしているのだ」
「いえ。何でもないです」
これは困ったな、と思う。
チケットはあくまで1組だけでしかも1日だけか.....。
なーちゃんを誘っても良いんだが.....。
マジに困った。
俺は思いながら顎に手を添える。
悩む必要は無いと思うんだが.....悩んでしまう。
「では教室に戻りたまえ。あくまで忠告だがサボるなよ」
「分かってますよ。その。先輩も早く戻って下さいね。あと.....呼び出しは個人が使うものではないですから」
「分かっている。次は無い.....と思う」
「.....」
それ本当かな。
そんな会話をしてから戻ろうと職員室を後にした。
それからチケットをポケットに押し込んだ。
悩みも押し込める様に。
☆
「どうしたの?」
「りーちゃん。なーちゃん。その。話があるんだが」
「え?遂に告白!?」
何処の馬鹿野郎だ。
んなこと言った奴は。
何ぃ!!!!!、と一気に教室が固まったじゃねーか。
どうしてくれる。
俺は唖然としながら、違うっての、と周りに答える。
この野蛮どもめ.....。
女子もそれなりのマジな目をしない。
俺は考えながらそのまま2人と共に廊下に出る。
男子達と女子達がザワザワと会話をする中で、だ。
「あのな。.....今度ジューンブライド.....というか今か。今がジューンブライドだよな?6月なんだが」
「うん?そうだね。確かに」
「それでその。ジューンブライド結婚式のチケットを矢那先輩から貰ったんだが.....」
「.....ふぇ!?」
え!?お付き合いをすっ飛ばしてなの!?
真っ赤になるりーちゃんとなーちゃんの2人。
俺はハッとしながら、いや。そういう意味じゃないからな!、と慌てて手を振る。
ってそういう意味じゃ無いってどういう意味なのだ?
考えながら咳払いした。
それから見つめる。
「ジューンブライド体験チケットだ。結婚式体験チケット。だけどこのチケットは1つしかない。1組限定なんだ。1日限定でもある」
「あ.....そうなんだ」
しょんぼりする2人。
いやあのな。
俺は額に手を添えながら見つめる。
その中でなーちゃんは、あはは、と苦笑しながら俺を見てくる。
「うーん.....」
「.....どうする?これは行くか?」
俺は2人に向きながら聞くと。
りーちゃんがニコッと笑みを浮かべた。
そして、今回はなーちゃんを誘ってあげて、と言う。
俺は、え!?、と思いながらバッとりーちゃんを見る。
その代わりにデートしてね今度、と言いながら、だ。
どうなっているのだ。
「え.....でも。凛花ちゃん?」
でも勘違いしないでね、と柱にもたれ掛かるりーちゃん。
それから俺達を見てくるりーちゃん。
俺は?を浮かべる。
「昨晩だけど私はさーちゃんの家に泊まったから。そしてイチャイチャした。それに.....だから今度はなーちゃんの番だよ」
「本当にそれで良いの.....?」
「もー。しっかりして。こんなチャンス無いよ?滅多に無いんだよ?」
柱から離れ。
なーちゃんの背中をバシッと叩き。
それから俺の前になーちゃんを持って来るりーちゃん。
俺は赤くなりながらなーちゃんを見る。
なーちゃんは居心地が悪そうな感じでモジモジしていた。
そしてりーちゃんを見るなーちゃん。
「.....本当に良いのか。りーちゃん。これで」
「うん。これは全部お礼だから」
「.....!」
「私にチャンスをくれたお礼。だからなーちゃんとさーちゃんに恩返しだよ」
「凛花ちゃん.....」
なーちゃんは唇を噛んだ。
それから顔を上げる。
有難う、と泣きそうな顔で言いながら、だ。
でも全部を譲った訳じゃ無いから勘違いしないでね、と笑みを浮かべるりーちゃん。
イチャイチャもし過ぎない事、とも忠告してくる。
「凛花ちゃん。本当に有難う」
「.....良いよ。お礼だしね」
「.....」
何だか.....良い雰囲気だな。
俺は思いながらなーちゃんとりーちゃんを見る。
そうしていると.....なーちゃんが俺を見上げてきた。
赤面しながら、だ。
その姿に目を逸らす様に頬を掻く。
「.....じゃ、じゃあ.....宜しく。さーくん」
「そ、そうだな.....うん」
そして俺達は来週の日曜日。
つまり期末考査の後にジューンブライドに出発する事になった。
ジューンブライドとは花嫁姿とタキシード姿で実際の教会で写真撮影するというものであるが.....。
何でこんなものを譲り受けたのか分からない。
冗談にしても矢那先輩が可哀想だ.....。
俺は思いながらまた苦笑して考える。
そんな俺の横。
舘島が、お前マジに死ぬか?、と言っていた。
オイ俺を殺すな。
殺し返すぞ馬鹿が。
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