第2話

 キーンコーン、カーンコーン。

 楽しい昼休みを終える予鈴が鳴る。

 校庭や廊下に出ていた生徒が次々に教室へと戻り、椅子を反転して机の上に置いては次なる清掃時間への準備を始める。

 今週の清掃場所は、教室だ。

 女子が箒がけを終えるまで雑談している男子の尻を叩いて雑巾がけを促し、全員で机を整列させるのが、我が班のルール。

 ホコリを集める最中にちらっと耳に入る男子の話は面白いほど馬鹿げていて、でもしっかりとオチが有るから感心する。うっかり吹き出しそうになるのを堪えて密かな楽しみとするくらいだ。

 でも、今日の雑談は少し雰囲気が違っていた。


「なぁ、昼休みの呼び出しって告白だろ?」

「隣のクラスの女子が騒いでたぞ」

「相変わらずモテるよな」

 いいなぁ〜!

 絶妙な太いハモり声が、とある男子を囲む。

「相手って誰?」

「返事したの?」

「付き合うの?」

 嘘でしょ〜!

 悲しみの黄色い声が、新たにその男子を囲む。

「いや、断ったし。俺、好きな人が居るからさ」

 一同がざわめく。

 

 学年でもトップレベルの茶目っ気タップリご陽気者として人気のある彼。眩しい笑顔で放つ冗談とハッキリとした物言いながらも謙虚な姿勢も忘れない真面目な一面を併せ持つ、誰もが頷くイケメンくんだ。何処かに不協和音あればその人懐っこさで忽ち関係改善を図る、なんてのもお手のもの。気が付けば彼の周りには男女問わず集まってくる、オタク民の私にとってもまさに太陽のように燦然と輝く存在なのだ。

 そんな彼のハートをグワッとわし掴む者が居る。

 誰なんだ、その相手とは?

 この場にいる殆どが男女の垣根を越えて興味津々に彼の次の言葉を待つ。

 お陰で、掃除が一向に進まない。

 そして、箒をサカサカと忙しなく動かすこの手には汗がジワジワと滲んでくる。


 彼は言う。

「相手が誰かは、教えない。ていうか、教える義理も義務も無いし。でも……ちょっとだけ、ちょこーっとだけ、サービスな」

 交際中か否かも不明だが、どうやら彼の愛は想像以上に深いらしく、パチッと軽くウインクすると、ちょっとどころか怒涛の如くその口から溢れ出てきた。

「その人はさ、超優しいんだ。俺が困っていると、いつも助けてくれる。落ち着いてて、考えもしっかり持ってて、何より笑顔が素敵なんだ。恥ずかしがり屋で滅多に見せないのが、また良い。ドジって慌てるところも可愛くてさ、何か、守りたいけど守られたい―――みたいな? いやー、これだけじゃ全然足らないな。あの人の魅力を語るにはさっ!」

 呆気にとられる一同を前に延々と続きそうな彼の恋心は、進捗を確認しに来た担任の先生の雷とともに漸く幕を閉じた。

 そして私は、終始複雑な思いで箒がけを進める。

 はー、そうなんだー。

 語り尽くせないんだー。

 ほー、ほー……ほぉ。

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