あのさ、今日も見せてくれない?

Shino★eno

第1話

 わいわい、がやがや。

 きゃっきゃ、あはは!

 給食を終えて賑やかな昼休み。

 とにかく身体を動かす男子、ドラマとK−popアイドルの最新情報で持ち切りの女子、落ち着いた雰囲気で読書を始めるおっとりさん、鉢花の手入れに余念のない仏頂面くん―――。

 そんな同級生の邪魔をしないように教室の片隅で友人二人とアニメの話をする、私。

 全世界への流布と発信による類稀たぐいまれなる発展をみせたオタク文化は、ひと昔、いや、ふた昔の様な人類からの拒絶反応も随分と薄れていき、今や私を含めたオタク民の人権が守られつつある。

 とは言え、夢中になりすぎて声のトーンを間違えたり早口でまくし立てると向けられる白い目は未だ健在ではあるけど、まぁ、そこは深〜い懐でアイドル推しと同類項と解釈していただけると有り難い。

 何にせよ、この時代に生まれて良かったなぁ、と思う今日この頃。


「昨日のは、まさに神回だね」

「本当だよ〜、涙も涸れちゃったよ〜」

「この先って原作では―――」

 友人の席に赴いては、熱気高まる感想会。

 仲間内で流行っている小説が待望のアニメ化を果たしてから、早二ヶ月。開始から八回目にして第一章の山場を迎えて私達の作品熱は盛り上がるばかりだ。巷では映像化を危ぶむ声も有った中でのクオリティの良さと表現力の高さに、前述の通り涙無しでは語れないのである。

 原作を読んでいるだけに物語の結末を知りつつも、それが映像としてこの目から脳に焼き付けられるというのは何物にも代え難い尊さであり、しかも、その作品の中で私が最推ししているキャラクターがメインの登場回となれば、尚更なのだ。


「はぁ、ツライけれどカッコ良すぎて困ったよ。永久保存して、繰り返し観ることにする〜」

「わかる! 私の推しの回もそうしてる」

「どのキャラでもそうだけど、やっぱり暗い過去話は悶えるよね」

 本当に、そう。

 私の最推しクンは、とても明るく元気な柴ワンコのようなキャラクターである。

 誰とでも仲良くなれるコミュニケーション能力に長け、喜怒哀楽の〈喜〉と〈楽〉に感情の殆どを振り分けたような性格ながらも、実はとても気遣い屋で仲間思いの涙もろい一面を併せ持つ。

 物語の途中から仲間になる脇役ながらも、過去との決別を果たしたこのエピソードから彼の好感度が上がり続けており、初登場から推している私としてはすこぶる鼻が高い。

 どの目線で物を言っているのか、と同担の皆さまに叱られそうだが。


「それにしても、まさかあのキャラにご心酔とは」

「これまでの推しとは一線を画すよね」

 もともとはクールな大人しめキャラが好みの私。

 それが、今回ばかりはタイミング的に正反対と言っても過言ではない彼に惚れてしまった。

 その理由は……。

 今のところ、この二人にも秘密にしているが。

 ニヤニヤしているところを見ると、完全にバレてるんだろうなぁ。

 


 

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