一章 傲慢王女は帰りたくない⑦
リュークは少し考えたあと顔を上げた。
「何故、そう婚約の解消を
「え?」
「
思わず言葉につまった。
「それが貴方の望みだと思って切り出しました。なのに
「…………」
「正直、貴方の行動には
(す、するどい……!)
そして意外にもリュークは、ほとんど会話もなかったわたしをよく見て理解していた。ハンスとの
まさか死んで未来を知っているからです、だなんて言えない。
「
その通りだ。わたしはその先の未来を知っている。
「私は貴方はここを出るべきだと思っています」
言うべきかどうか迷った後、彼は口を開いた。
「……それに、これはつい最近入った報告ですが、相手国に
それは初めて知った情報だった。
このところ彼が連日
「こんな事は今まであり得なかった。戦力も豊かさでも
彼がそう決意するのも無理はない。
「確かに、わたしがうっかり
「……そういう意味だけではないんですけどね」
確かにそれだけでは済むまい。下手をしたら責任を
「ですから貴方への悪評は関係ないんです。早急にここを出るべきだ」
強い意志を感じる拒絶だった。
「お
「…………」
キウル国とのいざこざなんて聞かされていなかったけれど、事情を知った今はお父様もそのつもりでわたしをバルテリンクに送り出したように思える。
それなのにわたしと婚約破棄しようとするなんて……。
苦い気持ちが胸の奥に落ちたけれど、それを無視した。
「わたしなら
心配だとか帰りたがっているとかそんな言葉で
最初に来た日からずっと言われ続けてきた事なのだから
「わたしはお
ああ、だけどさすがに別邸はうんと遠く
せわしなく
(そういえば前回のリュークは結局その後一年近くの間、
それがずっとわたしの中で引っかかっていた。
てっきり、追い出されたらすぐさま結婚するのだろうと思っていたのに、
今は遠くなった時間の事を考えていると、リュークは不思議そうに首をかしげた。
「伯爵令嬢というと、モンドリア伯爵令嬢の事ですか? 確かに伯爵からは何度か
……なんでここでとぼけるのだろう。
ものすごく腹が立つんだけれど。
「この
「では
「…………え?」
「何故そんな話になっているのでしょう。大体そのつもりがあるならとっくに結婚しているとは思いませんか」
「う。いや、それは、ま、わたしもそう思ってたけど……?」
しかし何度もメイド達が当然の事のように話していたので、何か事情があるのだろうと思い込んでいた。
それに、リュークだって最初の
(……いやでも、そう言われてみると単にいつも通りのリュークだっただけかも)
わたしは
そう……言われてみれば人の噂以外は……特にないかも。
うんん?
「じゃあ、フローチェと恋人同士って話は? わたしのせいで結婚出来ないって!」
「彼女とそういった関係だった事は
……
先入観って
今までの
「私が結婚相手として考えているのは貴方だけですよ、ユスティネ王女」
わたしだけ。
王命の婚約なのだから、本来そうであるべき当然の事なのだけど。その言葉はじわじわと胸にしみて
「それで改めて聞きますが、貴方がそこまで気持ちを変えた理由は一体なんですか?」
「うっ……」
彼は慎重な性格だ。ここで上手く説得できなければ、今度こそ強制
(だけど、いい加減な嘘をついてもきっとすぐに見破られて終わりだわ。どう説明したらいい? このちぐはぐで
わたしの中でリュークは
「わ、わたし……わたしが態度を変えた理由は……」
どうしたら……。
その時、
「リュークに
「え……」
ほんの一瞬だけ、いつもの皮肉っぽい様子や無表情とは
思わず口に出してしまえば後は勢いで言葉が流れ出る。
「一目見た
ああもう、なんなのこの照れくささは。しかもこっちはこれだけ
「…………なるほど? それは全く気が付かなかったですね」
ギクリ。
(まあ、今考えつきましたからね)
リュークはわずかに首を
「それで、私のどこをそんなに気に入ってもらえたんですか」
「……ふぇ?」
「好きなんでしょう、私の事」
(は……はああああああああああああああああ!?)
この人、とても告白してきた相手に向けるとは思えない冷静さでとんでもない事を質問してきた。
(嘘でしょ!? まさか、相手に自分を好きになった理由を口に出して説明させる気? 信じられない!)
しかしまさか「特にありません」とは言えない。
(何か、何か言わないと……!)
「え、ええっと。そうね、物静かで落ち着いたところがいいわね」
「そうですか。他には?」
「ほ、他にぃ!? え、えーっと……………………」
「おや、それだけなんですか。こんな
「か、顔です! とても好きな顔なの。背も高くてスラッとしているし」
「へえ。他には」
「…………っ!」
ダラダラと冷や
(……ちょっと、これってもしかしてからかわれてる?)
もしくは
深呼吸して目を閉じた。
嘘をつく一番のコツは、本当を織り交ぜること。
「死に戻り」を
「……
「瞳、ですか?」
「そう。
思いつくままに、感情のままに生きてきたわたしとは全然違う。
常に冷静、計画的で
わたしから見れば信じられないほどの自制心の
「だからこそ、その冷静
表に出す事のない感情はそのまま消えてしまうのだろうか。
わたしはそうは思わない。
むしろ抑えつけ自分の中にため込んだ気持ちほどより強く、いつまでもとどまり続けて
正しさ以外何もないような顔をしている彼が
(……あれ。考えている事を
ドキドキしながら視線を上げると、いつものように冷静そのもののリュークがいた。
でもちょっと
「……
「リュークだって少なからずわたしに興味があるはずよ。だってわたし達は、無視するにはあまりにも違いすぎるもの」
絶対顔赤い。
「本当に貴方って人は……」
なんだろう。とっても勝った気分。
その日の夕食は
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