一章 傲慢王女は帰りたくない⑥
翌日の早朝。
(お
なんだか色々やらなければならない何かがあったような気がしたが、
もう一生起きなくていい。
「……ん……」
動くな動くな、お布団に隙間ができると冷気が入り込むじゃないか。わたしはギュッと
(あ……心臓の音、すっごく安心するな)
「…………んんっ……? ……」
一瞬の静けさの後。
ガバアッ!
「うひぁふ! 寒い!」
思いっきり布団を
バサリとひるがえる
「……っ!」
声にならない声を上げた彼は、はっきりと
(あ、まずい。先に起きるつもりが
予定では
(おかしいなあ。一応
「ユスティネ王女っ……!」
「しぃっ! 静かにっ!」
片手で
逆にこちらの方はもう、ここまでくると居直った。
「まずは静かにして。
「それはこっちの
「寝顔
「それもあまり言われたくないですね。とりあえずどこから
他人の感情に
「……まさかと思いますが、これは王室の慣例か何かなのでしょうか」
「まさかー。そんなわけないじゃない」
「そうですね。
すごい。これ以上嫌われようがないと思ってたけど、まだ底があった。
「この城を設計したのって王城と同じ
「……なんてことだ」
「リューク様、お目覚めでしょうか?」
ドアの向こうから声が掛かり、お
私はリュークに向けて再びしーっと人差し指をあてると、サッと布団の中に潜り込む。
「こんな現場を見られたら結婚待ったなしよ。
「は? ちょっと待て……」
布団を
「リューク様、おはようございます。今日はいつもよりずいぶんと早いお目覚めですね」
(この声は確か
主人が起きた気配を察してすぐに
「…………。今日は……いつもより夢見が悪くてな……」
セーフ!
とりあえず誤魔化してくれるようだ。よっぽど婚約破棄したいらしい。
引き続き聞き耳を立てていると、シモンの方から言いづらそうに報告が入った。
「ところでユスティネ様ですが、今朝も報告があがっております。なんでも今度はつい
「……なんだと?」
リュークは聞き返したが、シモンはその
「もう一度聞くが、あの性悪……いや、甘ったれ……ユスティネ王女が問題を起こしたのは本当についさっきなのか? 昨日ではなく?」
「ええ、こちらに伺う
わたしは昨日の晩からここにいた。だというのについ先程わたしがメイドに
(これでちょっとは話を聞く気になってくれたかしら?)
わたしの行動は、明らかに悪意ある
「王女の件についてはよく
「おや、医者を呼びましょうか」
心配する執事を追いやり、内側から
「……それで、ご用件は何でしょうか」
朝食の予定だった三十分だけという約束で話し合いが始まった。
「わたし達、お互いに誤解があると思うの。今のやり取りだけでも分かったでしょう? あなたは
リュークは
「……今まで聞いた報告は
「そうよ。だって婚約破棄を言い
「私が聞いていたのは気に入らない
想像していたより
「ひぃぃ! やらないわよ、そんな見てるこっちが痛くなるような事!」
「領地に
あ。それはやったかも。
……。
「なるほど、事実無根のとんでもない
まあ、
「特にあの記念樹は
「い、いいのよリューク! 人はみな
わたしは早口でまくしたて、誤魔化した。
心なしか視線が冷たいような気がするけど、バレてない……はず?
うん、とっとと話を進めよう。
「最初にこの空気を作り出した人がいたはずよ。だからまず
「……なるほど。誰かが王女を意図的に
「! そう、そうなのよ!」
思わず勢い込んでリュークの手を
「王族に対する重大な反逆
リュークの口調は穏やかなままなのに
(うん……? なんか怒ってる?)
「まあ、中には思い込みで言った人もいるだろうし、
なにせ誰も
今まで王家の七光りで好き放題やってきたわたしは、敵意に対してとても無防備だった。悪意を持った誰かがいたのならさぞや簡単な仕事だっただろう。
「許しがたいですね。犯人を見つけ
「しないわよ? 一回深呼吸しましょうか」
そもそも
「というわけでわたしとの婚約を破棄したいのなら、その前に本格的にわたしを断罪するという名目で、もう一度証言をとり直してちょうだい。誰が何を言ったのか
「証言をとり直す事にはもちろん異存はありませんが……
うーん。この人本当にいい人なんだなぁ。
「絶対! 必要!」
断固として主張する。
「いい? ここの人達はわたしが
「なるほど。そういうものなのですね」
そんな発想もないくらい、リュークは好き嫌いがあったとしても公平に対処するのだろう。だけど
「なんなら新しい証言だってとれちゃうかもしれないわね。うふふ、楽しみ」
リュークはまじまじと見つめてきた。
「貴方は本当に変わっていますね。人に悪しざまに言われるかもしれないのに
「全く気にならないわ! だって誰が何を言おうがわたしの存在価値は変わらないもの」
「そこまではっきり言いきれるとはなかなか
「ええ。生意気で
自分のこの性格はあまり
「私は好きですよ」
…………。
(ああ、そういう性格がね。うん、この土地じゃめそめそするタイプは生きていけなそうだもんね!)
「そ、それにしても意外と話をすんなり受け入れてくれたわね。もっと
「……最近少し
「気を
「そうですね。お
(うっ……これ以上なく簡略化した姿って、朝のアレのことよね)
ちらりと
もしかして、からかわれてる?
(人を
彼がわたしに対して怒るのは領民に危害を加えられそうな時だけ。逆に自分に無礼な態度をとられたり好き勝手に領内で遊びまわったりといったことは気にしない。
「一つ、質問してもいいでしょうか」
大切な質問をするかのように、リュークはゆっくり切り出してきた。
「先程、
「え? だから
「ええ、たとえ私達の間に何もなくともあの場を見られていたら、
真っすぐに見つめてくるアイスブルーの
「婚約解消したくないのなら、あの
確かにリュークの言う通りだ。しかしわたしの回答は
「相手の
絶対
(あ、
それまでずっと冷たさしか連想させなかった色の瞳に、何故か温かみを感じた。
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