第24話

『レポート多すぎて、泣きそうだよ( ;∀;)神谷君は課題結構ある?』


 そんな通知が聡太のスマホ画面に表示されている。しかし、返事はせずに画面をスリープにした。


 聡太は今、大学内の食堂にいる。海斗がトイレに行っているから、今は一人で二人用テーブル席に座っていた。


 周囲には昼食を終えて談笑している者や、パソコンを広げてレポートをやったり、友人とノートを見せ合ったり……。来週からテスト週間だから、普段怠けていた者は忙しそうだ。


 聡太はやることがなく、スマホの電源をいれた。合コンで出会った清水夏穂からのメッセージが真っ先に目に飛び込んでくる。


(いつ、終わるんだろう。この会話…)


 メッセージを見て、考える。出会って約一ヶ月。一応、やり取りはしているが、どうでもいい話ばかりだ。それでも彼女からメッセージが来れば、返さないわけにはいかない。この会話はいつまで続くのか、正直わからずにいた。


 そんなことを考えていると、突然、


「神谷君。よっ!」


 と、右から声をかけられた。


「賀喜さん」


 聡太は彼女を見て言った。


 聡太の前に立つのは賀喜沙耶。新谷美優の友人で、海斗とも仲が良い(?)か、わからないが、友人だ。


「一人? 珍しいね? あっ、でも鞄あるね」


 沙耶は聡太に問う。


「うん、海斗が今トイレに行ってるよ」


 聡太はトイレの方角に顔を向ける。まだ海斗が帰ってくる気配はない。


 ふーん、と沙耶は頷いた。その反応はどういう意味だろうと、聡太は思った。


 するとその時。沙耶の後ろに人影が見えた。

聡太はその人物と目があった。


「あっ、神谷君」


 新谷美優は少し驚いた後、笑みを浮かべた。


「神谷君、何か通知来てるけど?」


 美優と目が合っていると、沙耶が机に置いてあるスマホを指差した。


 あっ、と口を開けたときはもう遅かった。


「夏穂? えっ!? 神谷君、女子と連絡してるの?」


 沙耶は驚きのあまり、声が大きくなった。その声は当然、彼女の後ろにいる美優にも聞こえており、


「えっ…、ほんとに?」


 と、美優は一瞬固まってから、そう口を動かした。


「なになに! 神谷君、女子に興味ないと思ってたからびっくり! どこで知り合ったの?」


 呆然と立ち尽くす美優をよそに、沙耶は興味津々の様子で、海斗が椅子に置いていた鞄を退かし、聡太の向かいに座って詰め寄った。


「わ、私もその話詳しく聞きたい!」


 美優も机をバンッと強く叩き、聡太に顔を近づけた。その気迫に聡太は思わず体を反らした。


「別に隠すことじゃないからいいけどーー」


 と、そう切り出した聡太は、夏穂に出会うまでの経緯を二人に簡単に話した。


「おー、合コンねえ!」


「ご、合コン…」


 沙耶と美優は真逆のリアクションを見せた。さらに気になる様子の沙耶をよそに、美優はショックのあまり愕然とした。


「そう。で、その合コンが終わってからーー」


 二人の反応にあまり触れないよう、聡太は続きを話始めた。合コン後の女子との関係について、二人に簡潔に話した。


「なるほどね。それでまだ連絡が続いてるんだ」


 沙耶は納得した様子で、何度も頷いた。美優はいつの間にか予備の椅子を持ってきて、沙耶の横に座っている。


「連絡が続いてるってことは、神谷君はその夏穂って人に興味ある感じ?」


 沙耶はそう言うと、美優はぴくり反応した後、聡太をじっと見た。そんなに見つめなくても…。


「いや、そういうわけじゃないんだけど…」


 と、聡太は言ってから、困ってることを二人に話した。


「このまま連絡を続けるべきなのか、わからなくて困ってる」


 数秒間沈黙ができた。聡太の目の前で、沙耶と美優がお互いを見つめあっている。

 

 沈黙を打ち破ったのは沙耶だった。


「驚いた。神谷君がそんなことを言うなんて。何か意外」


「うん。悩みを話してくれるなんて…、びっくり」


 二人は聡太が自分の状況を隠さずに打ち明けてくれたことに驚いていた。


(一体、どんな人と思われてたんだろう、俺)


 そんなことを内心思い、苦笑いを浮かべた。


「私だったら、別に興味ない人だったらスタンプ押して、会話途絶えさせるかな。スタンプで返したら、もうそれは、あなたと連絡続ける気はないですよ、脈なしですよ、って言ってるようなものだからね」


 沙耶の意見に、聡太はそういうものなのか、と頷いた。


「私も、同じかな。スタンプで返したり、返事は遅くして、気がないことを意思表示するかな。最悪、既読無視しちゃうけど…」


 美優は頬をかいて、苦笑した。二人とも同じような方法で連絡を途絶えさせるらしい。


「ま、それは神谷君が相手に気がなかったらの話だからね。気があったら別だから」


 そう沙耶が意味深に笑うと、


「えっ、やっぱり気があるの?」


 美優は、不安が混じったような瞳を向けてきた。


「いや、ないけど…」


 聡太はその視線に困りながら、返事した。


「そう」


 美優の瞳が徐々に安心が戻っていく。その様子を沙耶は面白そうに見て、口角をあげた。


「二人が言ったこと、後でやってみるよ」


 聡太はちらりと画面見て、沙耶と美優を見た。二人とも、うん、と揃って微笑んだ。



◇ ◇ ◇



 その夜。聡太は清水夏穂に対して、メッセージを数文字返した後、スタンプを押して会話を途絶えさせた。


 その効果はあったようで、その後連絡が来ることはなかった。しかし、どこか相手に申し訳ない気持ちが不思議とあった。



◇ ◇ ◇


 一方、聡太に代わって美優は、


「合コンなんて聞いてないんだけど~!!」


 想い人が出会いの場に行ったことに対し、とてつもない不安と危機感を覚えていた。


 夏穂という女とのその後を知りたくて、ベットの上で悶えていた。








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