第22話
合コン当日。大学からほど離れた居酒屋で開催されることになった。
指定の場所に着くと、翔以外の二人は店の前にいた。一人は
もう一人は海斗である。昨日、聡太は海斗に、
『明日何だけどさ、なにか用事ある?』
と訊ねたところ、海斗は、
『明日はちょっと用事ある。どこか行くのか?』
『ああ、翔から合コンに誘われてーー』
『行くわ』
『…用事は?』
『あんな用事、後日でもいい』
『そう。なら翔に伝えておくよ』
ということで、海斗も参加することになり、無事四人集まった。
「なんか聡太がこういうの参加するの意外だな」
「まあ、ね」
海斗に振られ、曖昧に答えた。
数分して、主催者の翔が4人の女性を引き連れて店の前にやってきた。
初対面だから皆どうしていいかわからず、お互いに小さく頭を下げた。
「皆揃ったことだし、いきますか」
翔は入り口の扉を開けて、店員に、予約した毛利です、と言った。それから男子、女子と続いて店の中に入った。
翔は個室の部屋を予約してくれた。堀こたつで、和の雰囲気のある中々洒落た部屋だ。奥から翔、樹、聡太、海斗の順に座った。
女子も座り、まずは飲み物を注文した後、翔が全員に向けて言った。
自己紹介を済ましたタイミングで飲み物が運ばれてきた。皆真面目なのか、誰一人としてお酒を頼まなかった。聡太はウーロン茶を頼んだ。
「さて。本日は無事開催できたこと、本当に嬉しく思っています! 皆仲良くなることを願って、乾杯!」
かんぱーい、とグラスをこつんとぶつけ合った。聡太もグラスをぶつけ合って後に、一杯口の中にお茶をいれた。
「じゃあ、まずはお互いのことを知るために、自己紹介からいきますか」
翔は男子全員を見て、俺から行くわ、と自分を指差した。
「では先陣を切って。えっと毛利翔です! 大学一年生です。 軽音部に入ってます。趣味はー、ライブやフェスに行くことです! よろしくお願いします!」
やや緊張気味で翔は自己紹介を終えると、続いて隣の樹が、んんっ、と少し咳払いして話し始めた。
「高野樹です。同じく大学一年生です。軽音部に所属しています。趣味は、何だろ…、読書とか、ドライブとか? まだ自分のことあまり把握してないんで、わかりません。よろしくお願いします」
くすっと、女子側の何名かが口元を抑えて笑った。静かだった場の雰囲気が少しだけ和んだ。
次は聡太の番だ。聡太は、平常運転で自己紹介を始めた。
「えっと、神谷聡太です。大学一年です。翔と樹と同じで軽音部に入ってます。最近の趣味は、ギターを弾くことです。よろしくお願いします」
至って平凡な自己紹介だ。しかし、聡太は特に気張ることはしなかった。いや、する気がなかった方が正しい。
(ん?)
聡太は少し違和感を感じた。何故なら、左から二番目に座る女子と対面に座る女子が何故か凝視してくるのだ。そんなに変な自己紹介だったか、と内心焦る。
そんな聡太の不安をよそに、最後に海斗が喋った。
「松浦海斗です! 同じく大学一年です! この流れからもちろん軽音部所属です! 最近の趣味は筋トレして、モテる体を目指してることです! 皆さん仲良くして下さい!」
やけに気合が入った声に、女性陣は笑った。いつも一緒にいる聡太からしてみれば、少し引いてしまった。
続いて女性陣が自己紹介を簡単に行った。聡太は名前だけはしっかり覚えておこうと、集中して聞いた。
聡太から見て、左から順に
「真琴ちゃんは、今何のアルバイトしてるの?」
早速、海斗が対面の真琴に話しかけ始めた。真琴は黒髪のロングヘア―で、清楚な雰囲気の女性だ。
「駅近くのパン屋さんで働いてるよ」
「へえー。パン屋さんかあ。じゃあ、厨房はいってパン作ってるんだ」
「ううん。私は主に接客だから作ってないかな。松浦君は何やってるの?」
「俺は今、居酒屋でやってるよ」
と、少しずつ会話が膨らんでいく。
「神谷君は今、何やってるの? アルバイト」
対面に座る夏穂に聡太も訊かれた。夏穂は少し髪を茶色に染めた、セミロングの髪型が特徴的だ。
「今は、ファミレスでやって、るよ」
初対面だから、思わず敬語で話してしまいそうになった。基本、聡太は初対面には、相手の反応を見るために、まず敬語から入る。しかし、こういう場で、向こうも「同級生」として接してくれているのなら、敬語を使う必要はない。
「へえ、ファミレス? どこのどこの?」
興味を持った夏穂が聡太を覗くようにして訊いてくる。聡太はその視線に少し苦手を感じながらも、某有名チェーン店を口にした。
「そうなんだ! 実は、私も今ファミレスで働いてるんだ!」
どこで働いているの、と聡太は流れ的に訊いた。夏穂は何の躊躇いもなく、チェーン店の名前と、働いている場所を言った。
「ちなみに、隣の柚葉も一緒に働いているんだ!」
夏穂は隣の(聡太から見て左に座る)柚葉に視線を向けた。柚葉は、ちらりと聡太を見た後に、こくりと頷いた。緊張しているからなのか、普段から大人しい性格なのかわからないが、おそらく後者だと、柚葉を見て思う。
「二人はさ、サークルや部活とか、なにかやってるの?」
真琴と話していた海斗は、柚葉にも訊いた。聡太の左では、樹と翔が、渚と楽しそうに話しており、柚葉にも話を向けていた。
「私はダンスサークルに入ってるよ」答えたのは夏穂だ。夏穂は横を見て、「まこちゃんって、何もやってないよね?」
「うん。私はあんまり興味がなくて、何にもやってない」
へえ、と海斗は物珍しそうに真琴を見た。
「でも、入ってない分、しっかりバイトしてお金稼いでるから!」
「おっ、じゃあ全員分奢ってもらいますか」
それはさすがに無理、と真琴が言うと夏穂と海斗は笑った。聡太も少し笑みを浮かべた。
「軽音部はさ、なんとなーく活動は知ってるけど、土日とかでライブしてるの?」
夏穂は聡太と海斗、二人を交互に見た。
「土日は特にやってないなあ。ライブは文化祭とか、定期的にお昼休みにやったりするぐらい…、だよな?」
海斗は聡太に確認する。聡太はうん、と頷いた。
「二人は、どんな楽器弾けるの?」次に訊いたのは真琴だ。
「俺は、今のところドラムだけだな。他のもんも挑戦しようと思ってるけど」
海斗が答え、「神谷君は?」と夏穂が言う。
「ピアノとギターなら、弾けるよ」
現状の実力を聡太は口にした。
「そういえばさっきギター弾くって言ってたね。二人はライブとかしたことないの?」
「あるよ」
夏穂の問いに、海斗が答える。
「へえ、そうなの! いつやったの?」
「高校の文化祭かな」
「そん時って、二人はどんな楽器演奏したの?」
「俺はもちろんドラムで」海斗は親指を聡太に向け、「聡太はボーカル兼ピアノ」
「ボーカル!? しかもピアノ? どういうこと?」
瞬時に目を大きくして夏穂は聡太を見た。聡太は少しどきりとした。
「歌いながら、ピアノ弾くってこと」
海斗はそのまんまの意味を言った。
「何それ! それって超凄いじゃん! ボーカルってことは歌上手いんだ!」
「超上手い」
海斗はもち上げて言う。そんな彼を聡太は横目で何も言わずに見た。
「めっちゃ気になるんだけど! そん時の映像とかないの!?」
あるよ、と答えたのは聡太でも海斗でもない。いつの間にか聡太たちの方を見ていた翔だ。
「ユーチューブで、『文化祭 ライブ』って調べたら出るよ。二人が出た文化祭が」
「そうなの? ありがとう、調べて見るね!」
夏穂は礼を言ってスマホをバックから取り出し、両手で素早く操作した。そんな彼女を翔は笑みを浮かべ見守っている。
「あっ、これ?」夏穂は検索した画面を翔に見せた。
「うん、それそれ」
「って、これなに!? 200万回以上再生されてるじゃん! 凄すぎない?」
驚きを隠せない様子で夏穂は画面を指でタッチした。すぐに動画が再生され、演奏が聡太にも聴こえてくる。聡太は、恥ずかしい思いに駆られる。
音声を聴くことに集中したいのか、皆喋らなくなった。演奏と聡太の歌声だけがこの部屋だけに響く。
数分間沈黙して、最初の一曲を聴き終えた。
「えっ、すごすぎない?」夏穂はちらりと聡太と海斗を見て、感想を漏らした。
「聡太はまあ、天才だからねえ」翔がニヤリと聡太を見る。
聡太は何ともいたたまれない気持ちになる。
「今はあれだから、家帰ったら全部聴こ!」夏穂は楽しみができたみたいに笑み浮かべ、スマホをしまった。
それからしばらくはお互いの活動やら、身近な笑い話を語り合った。
聡太もリアクションは大きくはないが、それなりに楽しんでいた。
今日、聡太が合コンに参加したのは、単純に経験をつけるためだった。様々性格の女性と向き合い、慣れさせ、今後の人生に活かす。
春奈や美優と出会ったことで聡太は女性に対する考えが少しずつ変わっている。少なくとも、昔とは違う。
そんなこんなで合コンは進み、ふと女性陣からこんな質問が来た。
「みんなはさ、過去に恋愛経験とかあったりするの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます