第16話
入学式が終わり、大学で1時間ほどガイダンスを受けた後、聡太は海斗と共にキャンパスを出た。
「で、結局聡太はどこに入るんだ?」
横を歩く海斗がそう訊ねてくる。
「うーん。まだ決めてない」
これといったサークルを見ていないからか、ここに入りたいと思えるのはまだない。
「海斗は決まったの?」
「俺は今のところ軽音部か、街ブラサークルかサイクリングサークルかなー」
そんなサークルがあったのか、と聡太は少々驚いた。
「サークルとか入らない人はどれくらいいるんだろ」
「うーん、結構いると思うぞ。新谷とカキサヤは入る気ないって言ってたし」
そうなんだ、と聡太は呟く。あの二人は入ると思っていたから意外だった。
「でももったいないよな。折角、色んなのがあるから一度入ってみればいいのに」
「バイトとかで忙しいとかじゃないの?」
「まあ、それも理由の一つだろうな」
海斗はぐるりを辺りを見渡して言う。キャンパスないにも多くのクラブやサークルのブースが設置され、勧誘が行われている。新入生たちがそれぞれのブースに集まって、上級生の話を聞いていた。
「俺たちもどこか行ってみるか?」
海斗はそう提案してきた。
「じゃあ軽音部に行こうかな」
聡太達は軽音部のブースの前に来た。それなりに人がおり、上級生が対応していた。
「あっ、もしかして入部希望者ですか!?」
椅子に座っていた眼鏡をかけた女性が聡太達を見ると、ガタッと勢いよく立ち上がった。
「いえ、まだですが。一応どんな感じか聞いておこうって…」
女性のテンションに困惑しつつ、海斗は答えた。
「そうなんですね! すいません早とちりして!」
「いえいえ」
海斗はかぶりを振る。何とも掴みにくい人だなと聡太は横から見て思った。
「軽音部っていつも何曜日に活動してるんですか?」
「ウチは基本火、水、木に活動してますよ!
基本強制出席って訳じゃないので、メンバーが全員集まることはあまりないです。自分が好きな時に、好きな楽器を弾く。縛ることなく、楽しく演奏することをモットーとしてます!」
眼鏡の女性は聡太と海斗、交互に目線を向けて、説明をする。
「それと、毎年10月の終わりか、11月の頭らへんに大学祭があるんですけど、そこではライブをしたりします!」
「ライブはどこでやるんですか? 体育館とか?」
そう訊いたのは海斗だ。
「体育館でするときもあれば、外ですることもありますよ。その年になにをするかによって場所は決まりますね。去年や一昨年は体育館でやりましたね」
へえ、と海斗は頷く。少し興味があるような感じに聡太は見えた。
「でも、先輩が卒業して部員が大分減っちゃったんですよねえ。3年生は私とあそこにいる男子だけです」
女性が指を指す。そこには眼鏡をかけた男子学生がいる。同じ眼鏡なこともあり、女性と雰囲気が似ていた。
「2年生は7人ですね。けど、さっきも言いましたがバイトやら他の予定やらで皆が集まることはあまりないですね。ちょっと今は部員少ないんで、できる限り多く入ってくれるとうれしいんですけど…」
眼鏡の女性の表情に少し不安の色が見えた。部がこれからも存続できるか不安なのだろう。
横の海斗に、聡太は目を向ける。どうしようかと、迷ってる様子で顎を触っている。
しかし、そんな彼に対し、聡太の気持ちはほぼ決まっていた。
「俺、ここにする」
小さい声だがその声は海斗にはしっかり聞こえていた。
「え。聡太、もう決めたの?」
「うん。何か面白そうだしいいかなって」
すると、聡太の言葉を聞いていた眼鏡の女性は、
「うわああん!! ありがとう! やっと新入生入ってくれて助かったよお!」
ぐいっと近づいて、聡太の手をがっしりと握ってくる。感極まったのか、なぜか目元が赤い。
「ああ…、どうも…」
聡太は困惑して、目線を逸らす。思った以上に顔が近かったから。
「おっと、すいません。つい、嬉しくて。でもこれでやっと新入部員第一号です!」
女性は冷静になって再び腰を下ろす。
「では、こちらに学部と名前を書いてください」
女性が聡太の前に入部希望書を出してくる。まだ誰一人新入生の名前が書かれていないから、白紙のままだった。
聡太は置いてあったペンを取り、指示通り記入した。
「ありがとうごさいます。神谷聡太君ですね。これからよろしくお願いしますね!」
女性は聡太の名前を確認して、笑みをこぼす。
「聡太入るんなら、俺もここにしよっかな。サークルなんていくつでも兼部できるし」
「ええ! ほんとですか! 是非是非!」
女性は入部希望書を海斗の前にも出した。海斗もペンで学部と名前を記入した。
「嬉しいです! ありがとうごさいます!」
女性は二人の名前が入った入部希望書を眺め、歓喜する。
「来週の火曜日、上級生と新入生全員で歓迎しますので、是非軽音部の部室に来てください!」
「わかりました」
聡太はそう答えた後、もう用はなくなったので、女性に背を向ける。
「では、また」
最後に女性に顔を見せると、待ってまーすと女性は手を振って返した。
「聡太、ほんとにいいのか? すんなり決めちゃって」
海斗があとからついてきて、そう訊いてくる。
「うん。音楽は好きだし。ピアノ以外にも違う楽器とか弾いてみたいしね」
聡太は胸の内を素直に言葉にした。
「そっか。まあ楽しいのは確かだな。俺ももっとドラム極めたいし。それにライブももう一回したいしな」
「また、あの時みたいにできたらいいな」
聡太の頭に浮かぶのは、半年前の高校の文化祭。ステージから見たあの光景は鮮明に記憶に残っている。
「だな。またできたらいいな」
海斗は聡太の言葉に頷く。
「明日から授業だってよ。何すんだろ」
「ガイダンス的な感じじゃない?」
二人は明日の予定を確認しながら、駅を目指して歩くのだった。
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