第2話 帰宅と喜び

 女子会の会話は店から出ても続く。店の前で話す旦那の陰口が止まらない。誰か一人が帰ろうとすると無意識に新しい陰口が飛び出して引き止める。

「旦那が迎えにきたから行かなきゃ。あーぁ何で来るかなぁ。もっと話したい事あったのに」

 わざわざ酒も飲まずに迎えにきてくれた旦那への感謝など全く感じず、迎えにきた事すら愚痴が溢れた。


「女子会楽しかった?」

 あゆみの旦那の和宏が運転をしながら妻に会話をしようと試みた。

「うん」

 空返事とはこの事を言うのだろう。今まで楽しかった会話の余韻に浸りたいのに喋りかけてくる旦那が鬱陶しくて仕方がなかった。

(おめぇがこなけりゃ、もっと楽しかったけどな)

 あゆみは久しぶりの飲み会で飲み過ぎたせいで家に着くと着替える事も出来ずソファで眠りに着いてしまった。


 明くる日、あゆみが目を覚ますと前日のお酒が残っているのか頭が少し痛む。二日酔いである。タオルケットを外しながらテーブルの上に置いてあった水を一口飲むと、頭が働いてくるが現実に引き戻された絶望感も同時に襲ってきた。

(あーぁ。またあいつの顔見なきゃいけないのか)

「おはよう」

ソファーの後ろからあいつの声が聞こえてくる。

「うん」

ここ数年和宏におはようを返したことなど無いあゆみは顔を見る事もせず、返事だけ返した。

 グラスを流しに戻そうと立ち上がり、振り返るとあゆみは水の残ったグラスを床に落としてしまった。

(えっ?竹野内?竹野内豊?)

 あゆみの目の前にはあの竹野内豊が立っているのだ。普段なら清潔感の無い髭も竹野内だとスタイリッシュな髭に見えてしまう。

「あなた?あなたなの?」

あゆみの前にいる和宏はどこからどう見ても、竹野内なのである。あのみっともなく出ていた太鼓腹も無くなっている。

「どうしたんだ?まだ寝ぼけてるのか?」

「⁉︎」

 声は和宏そのままなのである。この残念な現象に心の中でそこまで変われるなら声も竹野内にしろと呟くのだった。


 和宏が仕事に出かけて旦那が竹野内に代わっていた余韻に浸っていると亜子から電話が掛かってきた。

「あゆみ?旦那さん竹野内になってた?」

普通であればそんな事を言われたら驚くのだろうが、現実に旦那が竹野内になっていたあゆみは、もしかしたらと思い亜子に聞いてみた。

「もしかして亜子の所もキムタクに・・・」

「うん!なってた。キムタクマジでカッコよかった。朝から誘っちゃったよ」

あゆみは亜子の積極性にたじろぎながらも、自分の所だけかと質問をした。

「声って・・・」

「そうなんだって!マジでムカつく!顔はイケメンなのに声は元のまんまってマジでゲンナリだわ!」

 亜子の家もやはり変わったのは顔だけで声は変わっていなかった。

「まぁいいわ。今までは目を瞑ってたけど、これからは耳栓だけで良くなる」

 二人は男性に対して失礼な発言を繰り返すが、何も悪いとは思っていない。寧ろこんな感情にした自分達が反省しろと言わんばかりに大笑いした。

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