反映する愚痴

美心徳(MIKOTO)

第1話 女子会

「じゃぁ行ってくるわ」

 中田あゆみ46歳。今日は久しぶりにママ友同士での飲み会が行われる。コロナになってから一度も飲み会が開かれていないので実に3年振りぶりである。この3年で一番変わったのは30代だった夫が42になり、コロナの自粛生活のせいで劣化していた。昔から凄くイケメンと言う訳では無かったが、今は酷い。

昔は隣を歩いているだけで自分も若い気になれたのに、今では服装やメイクを気にしている分自分の方が若くさえ感じる。コロナの前はまだ子供達が小学生だった事もあり、中々家から出る事が出来なかったが、既に中学生に上がり自由な時間も増えた。

今日はたっぷり会話が出来る事に心が浮かれていた。

「久しぶりー」

 あゆみが居酒屋に到着すると先に待っていた亜子と佳苗の席に案内された。久しぶりと言うのも普段から顔は合わせているが、近所で顔を合わせる時には出来ない会話がここでは出来る。

3人は取り敢えず生ビールを頼みジョッキを高く掲げて乾杯をした。

 女子会は特別だった。普段言えない職場での愚痴、子供の近況などなど酒のつまみにするとどんどん酒が進む。

「旦那の劣化が激しいんだって」

生ビールを3杯ずつ飲んだ所で、ついにあゆみの待ちに待った旦那の陰口タイムが始まった。口火を切ったのは亜子だった。

「40過ぎてからさぁ、旦那の顔が皺くちゃになってまるで酔うとマントヒヒみたいなんだって」

「わかるぅ。うちの旦那も目尻にクマが黒くなって

デスノートの「L」みたいになってきた」

 佳苗が被せるように旦那の顔に対して手を叩きながら高笑いをした。

「L?いいじゃん!カッコいいしクールじゃん」

 あゆみは羨ましくなった。Lと言えば松山ケンイチ、山崎賢人が演じたイケメンである。Lと聞いただけで自分の旦那とは雲泥の差があり羨ましくなり年甲斐もなく語尾に「じゃん」をつけてしまった。

「顔は全然似てないから。目の下のクマと性格の暗さだけはそっくりなんだって」

 佳苗が目をグリッと見開き、テーブルを両手で壊れるのではないかと言うほど叩いて周りも顧みず馬鹿笑いをした。この佳苗の大笑いが更に旦那への陰口をヒートアップさせた。

「あーぁ。せめてキムタクぐらい劣化しなきゃ良いのに」

 亜子が突然芸能人を引き合いに出して旦那をディスり始めると、佳苗も同調した。

「分かるぅ。私の所も福ちゃんぐらいカッコよかったら良いのに。あゆみの所は良いよね。旦那年下だし、劣化も少ないでしょ」

「そんな事ないよ。うちのも40超えて腹が出てきたし、竹野内ぐらい身体が引き締まってたらと思うよ」

 3人はありえない妄想が膨らむ。キムタクに、福山雅治、竹野内豊などが旦那だったら、こんな所で愚痴を言わなくて済むのにと3人が現実に絶望をする。そして更にお酒は進み会話のタガが外れて下ネタへと突入する。

「あーぁ。旦那の顔が竹野内でベッドの中で甘い言葉かけられたらすぐにしたくなるのに」

 会った事も無い芸能人を呼び捨てにして甘い妄想をあゆみが口走る。

「えー、でも竹野内は髭が当たったら痛そうじゃ無い?」

 現実的では無い妄想トークに花が開き始めた。

「そんな事言ったらキムタクなんて自分が終わったらクールに決めて、それで終わりそうじゃない?」

「分かるぅ。福ちゃんならピロートークも楽しませてくれそうじゃない?」

 そんなありもしない妄想トークに盛り上がっていたらあっという間に閉店時間が来てしまい店員に退店を促された。3人は現実に引き戻される事をため息をつきながら家路についた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る