神頼み


 石段を登り切った竹中は神社にある井戸の前に連れ出し、勇遂を地べたにゆっくり寝かせて点滴類を手に持ち、状態確認をしていた。


 そこに遅れていた女子達が到着し、男子達に追い付く。今にも倒れそうな程、ゼェゼェしているが勇遂はどんどん弱っていく、彼女達に息を整える余裕はない。


「おい、井戸水ぶっかけりゃいいのか⁉︎」


「はぁ……はぁ、手水舎からッ……急いで汲んでくる!」


 澪はそう言ってすぐ近くの手水舎へ向かった。本来なら色々作法があるものだが、それをすっ飛ばし澪は竹柄杓で水をザバンと汲み、ダッシュで勇遂の元に向かった。


「はぁ、……良かった、まだ安西君息してる……」


「ああ、あとは傷が治れば——」


 二人で勇遂を看ている所に、水を汲んだ澪が戻ってきた。竹中は前開きの寝巻きを開き、勇遂の上半身を晒す。腹部に貼られた真っ赤なガーゼを剥がすと、縫合されたばかりの手術痕があった。縦に入っているその傷からは、血が滲み続けている。


「ごめんね、冷たいよ勇くん……」


 澪は膝を地面に付け、井戸水が入った竹柄杓を傾けて、満遍なく勇遂の傷にかけた。あとは変化を祈るのみだ。


「私もこれで治ったんだもん、安西君も……」


「勇くん……勇くん。お願いです、ナキサワメ様……」


「安西……目ェさませ!」


 しかし水は血に混ざり、腹部から流れるだけでしばらく待っても身体に変化は起きない。それどころか勇遂の手足の指が薄い紫色になっていく。それはチアノーゼであり、全身の血の巡りが悪くなった証拠——死の直前を表す。


「おい、安西がやべえぞ……!」


「そんな……なんで……ッなんで、安西君の傷が治らないの⁉︎」


 竹中と春日は慌て始め、もう一回傷に水をかけたり、名前を呼び掛けたりする。それなのに、何も起こらない。


「何か、条件があるんじゃねえのか⁉︎ 神様なんだから、儀式とか、呪文みたいなやつとかさぁ!」


「そんなハズは……本当に、水かけただけで治ったんだよ……!」


 澪も春日と同じだった。彼女も、怪我を水で洗っただけで痛みが引き、傷が治った記憶が残っている。祈りや儀式等はしていない。無意味という単語を頭から排除しながら、何が足りないのか、あの時と何が違うのか必死に考える。


「どうしたら……どうしたら勇くんを……」

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