冷たい炎上
澪の孤独の涙から土日を経て月曜日の朝。今週もまた五日間の学校が始まる。憂鬱な週明けに誰もが面倒な顔を浮かべるものだが、今日はいつもと違っていた。
登校した澪は、教室に入り自分の席に着く。カバンから教科書を出していると、妙に視線を感じて前を向くがこっちを見ている人はいない。
「?」
違和感を感じながら首を傾げつつ、カバンから筆記用具を出す。チラッと勇遂の席を見るが、彼は遅刻常習犯なのでいない。
「高城さん、おはよう」
内心勇遂の体調を気にしていると、後ろから竹中に話しかけられ、澪は慌てて振り返る。彼は金曜日同様、マスクをしていて目元で微笑む。
「竹中くん、おはよう」
朝の挨拶をすると、竹中は手を振りそのまま席に向かう。いつも通りだが、内気で人が気になる澪は全体から感じる視線が気になって仕方がない。
「澪ちゃん、澪ちゃん!」
そこに慌てた顔で春日が澪の席に近付いてきた。金曜日のウキウキ春日とはえらい違いで、焦りが垣間見える。
「礼美ちゃんおはよう、どうしたの?」
「これ……澪ちゃん知ってた?」
不安そうな顔で春日は自分のスマホを見せた。受け取った澪はスワイプして確認する。
「……え?」
スマホに表示されているのは、ネット掲示板のまとめサイト。そこに取り上げられているのは、勇遂の事であった。
【
そこには勇遂の本名、中学時代の卒業アルバムを切り取った写真、そして学校名と学年まで細かく晒され、勇遂に対する誹謗中傷が連なっている。そして澪の顔はモザイクがあるが、勇遂が彼女に威圧的に絡む動画もアップロードされており、澪は恐怖した。
「礼美ちゃん……なにこれ」
「分かんない……なんか土曜から、これバズってるらしくてさ……安西君めちゃくちゃ叩かれてて——」
その瞬間、教室がざわッとした。一時間目前にも関わらず、あの勇遂が登校し席にドカッと鞄を置いた。彼はマスクをしておらず、風邪は治ったのか顔色はいい。
「よお高城、春日。お陰様で元気になったぞ」
勇遂は言葉だけ二人に向けながらも、目線を合わせない。教室内にいる誰もが勇遂の炎上騒ぎを知っているのか、ヒソヒソ声が充満している。澪はたまらず声をかけた。
「勇くん……珍しいね、この時間に来るなんて」
「それがよ、渋沢とか教頭から呼び出し食らった。今から面談なんだと。親父も後から来るけど、めんどくせぇなマジ」
「安西君……大丈夫? 色々……」
「なんか、おれ色々言われてんだろ。どーってことねえよ春日」
この事態は屁でもないのか、勇遂はカバンを雑に置いた後チラッと澪を見る。そしていつもの威圧的な態度を見せる。
「余計なマネすんじゃねぇぞ高城ォ」
側から聞いたら澪への悪意だが、問題から突き放す優しさである。その一言だけ言い残し、勇遂は教室を出た。彼が姿を消しても教室内のヒソヒソ声は止まない。
澪と春日は不安を共有するように顔を見合わせた。不吉を煽る予鈴が学校内に鳴り響く。
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