公国を包む陰謀

先遣隊

「殿下、失礼します」

「入れ」


 ノックと共に聞こえてきた声に応じて入室を促すと、ボルジア伯とバルトリーニ博士が入ってくる。


「ラグーナへの調査隊派遣に関してですが、ある程度の目処が立ちましたので報告に参りました」

「聞かせてもらおう」

「農商務府からは、貿易管理局と税務局から選抜した12名の文官を派遣します」

「軍務府は、文官を護衛するために2個小隊を同行させます。それと、軍服を着用しない秘密小隊を別に派遣し情報収集を行います」


 俺は二人からの報告を聞き、顎に手を当てて思案する。今回はあくまでも調査が主目的であるため、武力による威嚇を行うことは基本的に想定していない。


 ラグーナは相当な私兵を抱えているとは言うが、流石に政府の調査隊を攻撃することはあるまい。あからさまな武装は相手を刺激するだけになりかねない。そう考え、俺はボルジア伯へ尋ねる。


「軍人の武装の程度は?」

「護衛小隊は小銃を含めた小火器で武装させますが、秘密小隊は護身用の拳銃と短剣のみ装備させるようにするつもりです」

「分かった。しかし、出来るだけ武器の使用は避けてくれ。無用な流血は望むところではない」

「承知しております。派遣隊長にはよく言い含めておきます」

「そのようにしてくれ」


 ボルジア伯は敬礼すると、執務室を出ていく。残されたバルトリーニ博士が、俺に質問してきた。


「殿下、一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか」

「なんだね、博士」

「今回の調査では、何を主眼に置けばよろしいのでしょうか。汚職摘発か、それとも脱税行為の発見か、それとも違法行為の捜査か……」

「ああ、そのことか。今回は、主に汚職摘発を中心に動いてほしい。もちろん脱税行為の証拠があればそれも収集してほしいのだが……違法行為があったとしてもその場では証拠の収集などは行わずに報告するにとどめてほしい」

「と、言いますと」


 バルトリーニ博士は首を傾げる。確かに、この世界の人間からすれば妙な指示だろう。しかし――捜査権限のないものには違法行為の摘発は認められない。先日内務府の管轄下に警察権執行機関として公国警務局を設置したばかりである。越権行為は避けるべきだ。


 ということを、かいつまんでバルトリーニ博士に説明する。博士はなるほどと納得してくれたようだ。


「了解しました。汚職の証拠収集を行うように部下には伝えておきます」

「よろしく頼む。下がってよい」

「はっ、失礼いたします」


 博士も退出し、部屋には一人になる。椅子に深く腰掛け、大きく伸びをした。

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