第120話 銀灰始末2

「自己紹介をしておこう。」

ゴーハン男爵は、ドロシーを見つめた。

愛情というやつを感じられる好ましい視線だった。

ゴーハン閣下は、男前で筋骨たくましい。

タイプとしては、ジウルさんに似てるかもしれない。


まったく頼り投げで面倒をみてやらないとたちまちダメになってしまうマシューとか、儚げな美少年の「彼」とか、だれが隣にいてもそれなりにお似合いのカップルに見えてしまうのが、ドロシーの不思議なところだった。


案外これはまだ、分析されていないチート能力なのかもしれない。

どうせなら、わたしもそっちがよかったなあ。

相手の返り血で傷が癒えるなんてのは、案外、使い勝手も見た目も悪い。

あと、生き返っても返り血で血まみれだし。


「俺はゴーハン。諸侯連合では、男爵の地位をもっている。立場的には、対銀灰皇国については最強硬派で、実際に、諸侯連合が30年前に制圧した旧街道地域の代官を任命され、銀灰の魔法士どもとはなんどもやりあった。」


うん。

わたしも自己紹介をしておくか。


「わたしは、アキル。異世界人で神に招かれた勇者。いまは、ランゴバルド冒険者学校の学生です。ドロシーさんも公式には、まだランゴバルド冒険者学校に在籍してるから、同窓生ってことになる。それから、こちらが邪神ヴァルゴールが12使徒のひとりバンディル。いまは、銀灰の神、トトを降ろしているこことはあなたも見抜いたが通り、それから」


ゆら。

わたしたちの背後の空間が揺れた。

ふたりの人影をそこに現れた。


「この度の件でさんざん暗躍してくれた『ゲオルク奉仕団』のゲオルクさんと、その部下のハクメイさん。」


ゲオルクは、不機嫌そうだった。

ハクメイは、わたしをちらりと見たが、その視線にはどこか勝ち誇ったものを感じた。


「ここでは、転移は妨害がかかると、きいていたが。」

ゴーハン閣下が探るように、わたしを見ながら言った。

「それはやりにくくなるだけで、絶対的なものではない、ということか。」


「ハクメイの中身は、天使だからね。ふつうの魔導師の使う転移とは、少し質が違うんです。」


「アキル。」

ドロシーは、ため息をついた。

「わたしもかわったと思うけど、あなたもずいぶんだと思う。」

「ハクメイは『世界の声』の天使だよ。いまは邪神ヴァルゴールの従属してるけど。」




「考えてられる限り、最悪の顛末と言ってよいぞ、これは。」

ゲオルクは座るやいなや、ガミガミと言った。

「ああ、なに? 紹介だと? そんなものはいらん、そっちは、諸侯連合の血まみれ男爵どのと、魔王と一緒に到着した銀雷の魔女だろう?」

「ドロシーと申します。」

ドロシーは丁寧に頭を下げた。

「お見知り置きを。ゲオルグ老師。」


「よくも、わしを謀ってくれたな、アキルよ!

この筋書きはシャルルではなくて、おまえが書いていたのだろう?」

「わたしが、考えたのは、魔王憑きを1箇所に集めて処分することだけ。そこに、リウくんや残念姫が乱入することは想定外です。」

「策とはな。想定以外のことも想定して立てるものだ。」


ゲオルクさんは、無茶なことを言う。


「いいか! 世界の声が作り上げた擬似魔王どもは、すべて倒されてしまった。

恐らく、真の魔王たるリウは、世界征服をする気まんまんだろう。

もとから、やつがそう考えていたかはしら

ん。だが、『世界の声』がこの世を総べるように作り上げた魔王もどきどもを、屠ることでで、彼らの持つ運命もひきついでしまった。」


そういう、考え方もあるのかあ。

わたしは、わりとこの偏屈そうな魔導師を気にいっている。

こいつはまるで「彼」みたいに思考するのだ。


わたしとシャルルとの会談の時に、わたしを邪魔者として、問答無用でぶち殺そうとした果断さをふくめて、わたしはこいつを評価する。


「リウは、軍団を組織して、世界制覇に乗り出す。その拠点として有力なのは、この銀灰、カザリーム、ランゴバルド、それにやつが連れている女、フィオリナの繋がりで、北のクローディア公国。」


ドロシーとおんなじ分析だ。

わたしも、口を挟んだ。


「クローディア大公国と、その飛び地のオールべはいったん除外していいと思う。」

「そうですか?

でも、オールべの駅前にはすでに、フィオリナの石像が建立される予定になっているのですが。」


もう少し、詳しく話をきかないととんでもないことになっている。


「だ、だれがそんなことを!!」


「鉄道公社の“絶士”カプリスとその守護獣たちです。」


聞くんじゃなかった。

なにが、なんだかいっそうわからなくなっている。


「とにかく、クローディア公国は、大公陛下がしっかりと掌握されているし、オールべはその直轄地。そこを起点に軍を起こそうとしても、大公陛下がとめますよ。

フィオリナ姫は、継承権を剥奪されているくらい、必ずしも大公夫妻とは、仲は良くない。」


「しかし、今回は魔王が一緒だぞ。」

ゲオルクさんが反論してきた。

「クローディア公は、かなりの傑物と聞いてはいるが、伝説の魔王その人の意思に逆らえるものなのか?

まして、娘を人質にとられたも同然の状態で。」

「大公陛下のお后、つまり、フィオリナの母親は、冒険者のアウデリアだよ。斧神アクロデイティアの現身とか噂されている。」



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