第116話 死霊の勇者
ウゴールさんは。
骨だった、というか骨の両腕を上げた。
魔王の因子が与えた仮初の偉丈夫姿は、もとの骸骨に戻っている。
試合場の地面は、だいぶ荒らされているが凍った土だ。
そこから、ぼこぼこと青黒い腕が伸びて、オルガっちのあんよに絡みついた。
オルガっちの大鎌が、一旋!
切断された腕が、宙を舞い、切り込んできた両手持ちの大剣を、鎌が受け止める。
「なんだ、この剣は。」
あとからあとから、出現する腕に、オルガっちの下半身は、絡め取られている。
「まるで、勇者剣だな。」
「ふふふ」
楽しげに、ウゴールさんは笑った。
「異世界転移してみたら、定番の勇者でした~なぜか与えられたのが死霊系魔術だったのでダンジョンにひきこもります」
「トト!!!」
わたしは、腕に力を込めた。
「なにをやっている!」
わたしの忠実な使徒の身体に宿ったトトは、涙目で言った。
「やってみたかってんだよお。異世人を招いて、チートを与えちゃって、大活躍させるって、やっばり神さまの醍醐味じゃんか。」
わたしは、そうは思わない。
召喚されるほうも迷惑だし、だいたい力を与えたところで、こちらの期待どうりに動いてくれる確率なんて、かなり低いんだ。
かと言って、それ自体のことで、トトを責めるのは気が引けた。
わたしだって、似たようなことをやってるし、ね。
「で、なんで死霊なの?」
「勇者がそういう感じなのは、新しいかな、って。オロールも、もともと人間を生贄にする捧げるヤバい教団の長だったんで。」
「そんなヤバい教団って……」
「彼のいた世界では、文明が崩壊しちゃってて、単純なサバイバルが続いてたの。それくらいしないと組織がまとまんなかったみたいよ。
この世界を滅ぼした神さまに、定期的に生贄を捧げないとわずかな生き残りの自分たちも全滅するってのが、教義だったらしい。」
とんでもない邪教だ。
わたしの知ってる世界線とは、違う軸から呼ばれたのか。
「なんて、邪神だ、そいつは。」
「さあ。彼の言う『大絶滅』からは百年は過ぎていたから、もう伝承レベルしか残って無かったの。神さまは、その世界を滅ぼしたあと、どこかに消えてしまったし。
教団の名前からかろうじてわかるその名は『ナツノメ。』」
わたし、じゃないか!
試合場のふたりは、黒い竜巻と化していた。
あとからあとからいくらでも登場する腕を振り払うために、
体を回転させていた。その回る力を利用して、ウゴールさんに叩き込む。
ウゴールさんもそれを弾き返しながら、斬撃を返し続けていた。
「わたしの剣は。切りつけた命を吸収する力がある。」
オロールさんは、オルガっちの鎌を、かわし、ときには弾きながらそんなことを言った。
まだまだ、その態度には余裕が感じられだ。
実際、剣の腕も相当なものだった。
しかも剣筋は、ミトラ流、たぶん一番おっきな派閥ミトラ真流だろう。
「おまえの鎌にも同様の力があるようだ、闇姫殿。」
ウゴールさんの豪剣を、鎌がふせいだ。だが、体勢をくずしたオルガっちの腰のあたりにまで、地中から生えた腕が拘束する。
もう腕ばかりではない。屍は地面から半身を乗り出して、オルガっちのおしりのあたりにしがみついている。
それは、恐ろしく背徳的でエロティックな光景ではあった。
アキルのわたしは、どうもそういったちょっと普通でないアレに、心惹かれる傾向があるようだ。
「だが、わたしの剣は、お主の生命力を吸い取るが、おまえの鎌はわたしの命を刈り取ることはできない。
わたしにはもともと刈り取るべき命がないからだ。」
腰にしがみつく屍の両腕を大鎌が刈り取ったとき。
ついに、ウゴールさんの大剣が、オルガっちの体を袈裟懸けに両断していた。
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