第115話 闇姫参戦
アルゼ姫だったものの、残骸は丁重に、「停滞フィールド」につつまれた。
もともと、バラバラの肉片にされたその体を縫い合わせて、ひとの姿に見えるようにしただけの存在だ。
もっと、さまざまな戦い方はあったのだろうし、力だけ取れば、ドロシーを遥かに、勝っていたはずだ。
あの“過剰魔力”を暴走させるという戦い方は、たぶん、リウと闘うために考え抜かれたものだったのだろう。
それをドロシーに使う必要はなかったし、ほかの戦い方をすれば、多分、楽勝していたのだ。それをさせなかった、銀雷の魔女の性格の悪さよ。
「シャルル、どうだ?」
と、オルガっちは明るい顔で尋ねた。
中央魔法学校の優等生は、なにを、です、と答えた。
「壊乱帝が最後をとげ、後継者候補のアルゼかはこのザマだ。あと、わたしだけ何とかすれば、憧れの皇位はもう目の前だぞ?」
「銀灰はもう終わりですよ。」
シャルルは、物憂げに呟いた。
「アルゼ姉が、魔力強化の手術をうけたのは、聞いていましたが。こんなものとは。」
そう。
こんな「もの」としか言いようがなかった。
実際、ひき肉に近い状態になっても、アルゼはまだ意識があり、蠢き、反撃しようとしていたのだ。
ドロシーが、冷凍パックしようとしていたほで、わたしがとめて、とりあえず停滞フィールドにくるんでもらって、治療?なり何なり
もう少しマシな状態にすることを提案したのだった。
「これが、アルゼが敵で、それを苦しめるためにやったのなら、まだわからなくもないです。」
シャルルは顔を歪めて続けた。
「本当にアルゼに高い魔力を与えたくて、そのために、当世最高の技術をもって、ミルドエッジという最高の技術者が渾身の力を持って、丁寧に仕事をした結果が、これです。」
「正直、同じ意見だ。」
オルガっちは、きっぱりと答えた。
「そもそも、いまの銀灰では、皇帝の力はそれほど強くはない。頼みの綱の特殊戦力『悪夢』もこの度の騒動で、戦力を削がれた。
戴冠したところで、治世を長引かせるために、に、各勢力を分断し、争わせる。
叔父上が行ったのと同じことを続けるしかなく、魔力偏重主義を改革することなど、とても望めないだろう。」
「例えば、ぼくが皇位についたあと、その補佐として、闇姫オルガがついて貰うことは可能ですか?」
「提案としては、悪いものでは無い。」
オルガっちは、笑った。
「だが、もっといい提案がある。」
ひるっ。
風を切る音がして、オルガっちの手に巨大なカマが現れた。
刃先まで、真っ黒な大鎌だ。
す
「此度の一件が終わったら、あらためて相談ひたいのだが、待ってもらえるか?」
「構いませんが。」
シャルルは目を細めた。
「オルガ殿下はどちらに?」
「あの骸骨殿と決着をつけてきたい。」
オルガっちは、巨大な鎌でウゴールさんを指し示した。
「あれは」
シャルルが顔をしかめる。
「物理攻撃を受け付けない。」
「やられっぱなしは、性にあわない。
シャルル。わたしを配下に起きたいのならば、それは覚えておけ。」
そう言い放って、オルガっちは、マントを広げて、飛んだ。
そのまま、奇怪な黒鳥のように、空をかけて、試合場に、降り立った。
「邪魔をするぞ、リウ。」
不快そうに顔を顰めたリウくんに、気軽に絡んだオルガっちは、その肩を叩いた。
「おまえといい、フィオリナといい、ドロシーといい。」
ぶつぶつと危ない系の美少年は呟いた。
「オレは、『世界の声』を名乗る痴れ者共に、敗北を与えてやらねばならないんだ。その為には、オレひとりでこの魔王もどきをバッタバッタとなぎ倒したいんだが。」
リウくんは、わざとらしいため息をついた。
「まあ、しかたない。オレの部下の名も知らんその他大勢が倒してしまっても、効果はあるだろう。
好きにしろ。」
「ほう」
オルガっちのコメカミに青筋がたった。
「誰がおまえのところの三下なのかな?」
残り三体の魔王「もどき」を無視して、ふたりの魔人は睨み合った。
「スキありっ…」
ねえよ。
二人に横から踊りかかった魔王ラングリッペの脛を大鎌の柄が痛打した。
魔王チュエルカの粘液を、貫いてその鼻を潰したのは、リウくんの投じた土塊だった。
「あほうだなあ。」
そう、わたしの隣で呟いたのは、トトなのか、我が使徒バンティルなのか。
「うん、あれはリウくんとオルガっちが。わざっとスキをみせたね。」
わたしも、その意見には賛成だった。
「ラングリッペの魔法球の攻撃は、確かに受けにくいけどね。それは発射がなんの前触れもないからなんだよね。」
体を起こしかけたラングリッぺとチェルカをリウくんとオルガっちが、蹴っ飛ばした。
ごろごろと転がって、ふっとぶ2人には魔王の威厳もなにもない。
「だから、仕掛けるタイミングをみて、それに合わせてハンゲキをしてみたんだけど、さすがに試合巧者というべきなのか、おまえの言う通り、あの二人が阿呆なのか。」
リウくんは、なにやら、わめきながら身体を起こしたラングリッペとチェルカに向かって歩き出した。
オルガっちは、ウゴールさんに向き直る。
「銀灰に生まれ育ったものなら、幼い日に魔法を授けに、枕元を訪れる『夜の賢者』ウゴールの名を寝物語にきいたことがある。」
くるくる。
大鎌が、旋回した。
「その伝説と直接、戦えるのは、名誉なことだ。どうだ、ウゴール。ここは本気でやり合わないか?」
ウゴールさんは。
その骸骨の顔が笑ったように、わたしには見えた。
「本気、だと?」
「そう。出し惜しみなしの全力で、だ。」
「ふむ。
隠遁していたわしにも、闇姫の評判は伝わっている。手抜きでどうこう、できる相手ではなさそうだ。」
ウゴールさんの喉がグルグルとなった。
ぐげええええええっ!
見た目は、真っ黒なゲロだったが、もともと、いまのウゴールさんには胃の腑は無いわけで。
地面おちたゲロを。
ウゴールさんは踏みにじった。
「使い慣れぬ魔王の因子など、抱えたまま戦える相手では無さそうだ。」
わたしは立ち上がって叫んだ。
「な、なにをやっている!!
わたしが与えてやった魔王の力だぞ!
この世界に君臨したくはないのか。古竜も、神獣をもしのぐ魔王の力を自分から破棄するとは!!」
「だから!」
“世界の声”がまた、わたしを睨む。
「なんで、おまえがぼくの内面を代弁するんだよ!」
「……ああ、だれもいないから、寂しいかと思って。」
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