第113話 リウ対五人の魔王

「こ、 こんなものは、致命の傷ではない!


わたしが与えた魔王の因子は、それぞれの魔王なかで成長を続け、強大な力とともに、凄まじいまでの生命力を与えている。


いまのは、油断しただけだ。

リウくんに気を取られた瞬間のスキを取られて、フィオリナさんの攻撃は受けたがしょせん大したダメージではない。」

「あのなあ、」


世界の声殿がいらいらと言った。


「なんで、おまえがぼくの心の声を代弁するんだ?」

「仲間が少なくって、寂しいだろうと思ってねえ。」


わたしは目いっぱい愛想良く答えた。

「世界の声」は、こちらを殺しそうな視線を投げかけてきた。もちろん、比喩的な表現ではない。

およそ、ありとあらゆる有限寿命者には、致命的なものだったが、こっちにもわたしと、トトがいるんだ。


「蹴散らせ! 我が魔王たちよ!」

少年は声の限りに叫んだ。

ふん、だ。

姿形をいくら真似たって、「彼」はそんなふうに、追い詰められたふうな声はださないんだぞ。

「リウを倒せば、世界はおまえたちのものだ。」


「そうして、世界を滅ぼしたあとは、今度はおまえたち五人で、覇権を争うわけだ。」

リウくんが、口をはさんだ。

「つくづく、救えないなあ、『世界の声』よ。かといって、進化させる魔王が一体だけでは、またオレに敗北するのがみえていて、出来なかったんだろう。詰んでいるのは、おまえのほうだな。真名を隠して地上に降りて、いろいろ画策したあげくに、みっともない羽目になったな。まあ、これも」


リウは、大袈裟にため息をついて、天井を仰いだ。


「魔王に、挑んだものの運命ということか。」


リウくんは、空になった両手をぶらぶらさせながら、ゆっくりと歩む。


「フィオリナのように、不意をついただけと文句を言われないように、ゆっくりぶちのめしてやる。まず、ザジ。」


「相手にするな! 全員でかかるんだ!」


「こいつは魔王の因子によって得られる力を、自分の高速移動に全振りしている。そのことで、魔王の因子の精神への侵食を防いでいる。」


わたしたちに、解説でもするように手を振りながら、リウくんは歩む。


「魔法で対抗しようとすれば、『愚物反転』で、こちらにダメージがくる。ならばどうするか。」


ザジの体が、かき消えた。

ミトラの奥義「瞬き」を凌ぐ、高速移動。


リウくんは、飛び上がった。

なにかの魔法で補助しようとすれば、ザジの「愚物反転」で、リウくんに被害が及ぶ。

純粋に、筋力だけのジャンプだったが、それは、ザジの背の高さをらくらく超えていた。


高速移動から攻撃するものは、自分自身も相手の動きが読みにくくなる欠点をもつものもいるときく。これはわたしの剣の師匠である、わたしの使徒からも「瞬き」の弱点として教わった。


だが、ザジの高速移動にその弱点は、ないようだった。


飛び上がったリウくんを、見失うことなく、自分も跳躍した。

リウくんより、高く!


そのまま、空気だけを足場に、向きを変えて、リウくんの後方に回り込む。

首すじめがけて蹴りこんだつま先に、キラリと刃物の切っ先が見えた。


ほぼ同時に。

ラングリッペが、盾に埋め込んだ珠を射出した。

さらに。

アルゼ皇女の両腕が、肘から分離して、リウくんめがけて襲いかかる。


リウくんの体から、血が飛び散った。


首ではない。

辛うじて。

肩で、ザジの靴先に仕込んだ刃を受け止めたのだ。


「むろん、分かりきったこと。剣技だけで

圧倒してしまえばいい。」


ザジの顔を焦りが浮かんだ。

リウくんの肩にくい込んだ靴に仕込んだナイフの切っ先が抜けないのだ。


「そして、なんだ?

全員でかかれ?だと。」


リウくんは、身体を捻った。

傷口が、開き、さらに大量の血がほとばしる。

わたしは、思わず、目を背けた。


こんなときは、彼もまた生身の肉体をもつ人間なのだと思い知る。

そして、生身の身体をもつ、人間が1000年を越えて生きていることの不可思議さに、心を痛めるのだ。


捻ったリウくんの動作に合わせて、ザジの身体は、リウくんの全面に投げ出される。

手を持った剣なら、手から離せはすむことなのだが、ブーツに仕込んだ刃物はそうはいかない。


恐慌状態のまま、ザジは、ラングリッペの球体と、アルゼ姫の両腕のまえに、その身を晒すことなった。


「コンビネーションのひとつも考えたことのない奴らが、同時攻撃なんかするとこうなる。」

そして、残念そうに、ため息をついた。

「せっかく剣技で圧倒してやろうとしてるのに、自滅しやがって。

超越者同士の戦いに、暗器などやくに立つはずもないだろう?」



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