第112話 勝利の条件

敵は、五体の魔王。


ランゴバルド皇族のアルゼ姫は、その体に魔力を集中させて、魔力の過負荷による暴発を自分から引き起こす。魔法防御も物理的な防御も、やりにくい。自分の体の一部も欠損するが、魔王の因子による再生能力とは極めて相性がいい。


ザジ``。銀灰皇国の冒険者。もともと、ミトラの奥義「瞬き」に勝る高速移動を得意とする剣士だったが、新たに魔王の因子を取り入れることで、相手の魔力を転換する「愚物反転」という能力を身につけた。直接向けられた攻撃魔法は、もちろん、相手が自分自身やその武具にかけようとした付与魔法も、その相手へのダメージに変換できるという。ある意味とんでもない便利魔法だ。


ウゴールさんは、魔導師の怨霊が顕在化したもの。神さまというのは地上のことには、甚だ関心がうすく、魔王の因子をう植え付けやすい一定以上の魔力をものが多い銀灰を、その舞台に選んだのはわかるのだが、何気に人間以外も平気で魔王候補にしている。ウゴールさんの体は、物理的な攻撃を受け付けないようだ。

効果があるように武器に付与効果のある魔法をかけようとすると、ザジの「愚物反転」が働くという実に厄介な仕組みになっている。


そして、出自も不明の、魔王チェルカとラングリッぺ。

前者は、手からスライムに似た粘液を放出する。

それだけだと、大したことがないみたいだが、この粘液は、物理的な攻撃にも魔法攻撃にも相当な耐性を持ち、自在に操ることができるようだ


ラングリッぺは、平凡な男にしか見えないが、その持つ盾に特長がある。

果たして「盾」と呼んでいいのかわからないゴツゴツとした塊で、表面に輝く球体が\埋め込まれている。

非常な強度のあるそれはフィオリナの魔剣による一撃も受け止め、射出することで、攻撃に使うこともできる。武具や魔法と異なり予兆が全く読めないため、かわしにくそうだ。



古竜に匹敵しうる実力を持っているはずの五体の魔法を前に。


リウくんは実に楽しそうに笑ってた。


「実に結構な展開だ。竜王陛下。だが、陛下。ここはオレ一人に任せて欲しい。」

「魔王陛下。」


ルルルぅは、疑わしそうに、リウくんを見つめた。

かつての「魔族大戦」の時代、ルルルぅは、竜王ではなかったにせよ、古竜の長寿なら、当時のことを語るものから直接話を聞いたことくらいはあるのだろう。


暴虐を極める魔族に対抗するために、古竜たちも立ち上がった。

その暴力は、いずれ世界のことわりをも侵食し、竜の都まで到達するとし推測されたからだ。

そして、古竜たちは、破れたのだ。

それほど多くの者が殺されたわけで、殺した個体数であれば、魔族の被害の方が多かっただろうが、少なくとも、古竜が肩入れしたいくつかの国は、古竜が直接、力を貸したにもかかわず、滅ぼされたのだから、「破れた」には違いないだろう。


「神に勝つには、いくつか方法があるのだが、その神そのものが、世界の成り立ちの一部であって殺すことも封じることも叶わぬ場合、とる方法は二つ。

その神の世界における役割を代替してくれる神を用意した上で、その神を殺す。」


そんな神さま見つかるのか?

「シフトかわってくんない?」くらいのノリで探せるもんじゃないぞ。

だいたい、そんな力のある神など。


わたしはゾッとした。


え?

まさか、わたしを代役に考えている?

勘弁してくれ。わたしは外の世界から流れ落ちた外神だぞ。

この世界の物理法則やら道徳やらを、司るなどまっぴらだ。それにわたしは、「彼」を救出したら、この世界を少なくとも一時、離れてでも、やりたいこと、やらなくちゃいけないことがあるんだ。


「もしくは、この方が現実的なのだが、神が自ら『敗北した』と認めさせ、新たなる神約を、結ばせること。

オレは、こっちをやることにした。」


リウは、ゆっくりと剣を鞘にしまった。


「ただし、中途半端な勝ち方では、おまえたちは『負けた』とは、認めないだろう。

おまえたちが、魔王の因子を人々に植え付けるのを、止めて、あるいは因子を植え付けられて『魔王の卵』となったものを捕らえて、元に戻し続けても、おまえたちは、それで負けたとは決して認めないだろう。

おまえたちの計画した通り、魔王因子を植え付けられたものたちが、争い、魔王と覚醒し、それをオレにぶつける。さらにそれが複数個体を用意して圧倒的な数の優位の上に、真なる魔王つまりこのオレには挑む、というのがおまえたちの計画だ。

それを完成させた上で、叩き潰す。

そうしなければ、おまえは自分の愚かさを実感できない。」


おお、怖い。


これは魔王の笑いだ。


五体の魔王も。

世界の声も。

ルルルぅたち古竜も。


それに気をとらえた瞬間。


フィオリナが動いた。


こちらも剣は鞘に納めていた。

本当によく似たカップルだった。

背後に回り込んでの拳の一撃は、ザジを殴り倒し、瞬時に作り出した光の聖剣が、オロールさんを袈裟懸けに切り裂いた。

同時に、蹴り上げた足がアルゼ姫頭を蹴った。ありえない角度に首をへし曲げてアルゼさんも倒れた。

フィオリナの白い指が、チュエルカの頭を掴み、フィオリナのピンクの爪が、ラングリッペの頭蓋に食い込んだ。


ガン!


硬質のものがぶち当たる音がして、チェルカとラングリッぺも崩れ落ちる。


「トドメはさしてないから、そっちでやれ。」

ポンと、リウくんの肩を叩いて、フィオリナは後ろに下がって、腕を組んだ。

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