第107話 究極進化

わたしは、会場を見回した。

勝ち残ったもので、魔王の因子をもったものは、


名も知らぬオブジェさん。

名も知らぬぶよぶよさん。

ウゴールさん。

アゼル姫

ザジ。

バンティル。


このうち、バンティルはその身に、銀雷の神トトを降ろしている。

魔王の因子は自分からいつでも排除できるはずだ。

まだ、理性の残っているウゴールさんとアゼル姫もうまく、「世界の声」からの影響を切断して、魔王の因子を排除して仕舞えば、こっちの味方だ。


すると、まだ究極進化を遂げていないオブジェとブヨブヨとザジを、残りの全員で袋叩きにする。

ぐうの音もでないほどの大勝利を材料に、「世界の声」に、「彼」と彼の記憶を戻すように交渉する。そして、今後の一切の不干渉を勝ち取る。


神さまは確かに、物理的な攻撃では死なないけど、逆に言うと精神的なダメージはそのまま、苦痛を感じるダメージとして通るのだ。


よし!

わたしはガッツポーズをとった。



離反したロウさまとギムリウスも、なんとか呼び戻そう。

そうだ、彼さえいれば、わたしたちはまたまとまれる。

立場をこえて、種族をこえて、一緒に寝起きしてご飯をたべて、一緒に旅をして、冒険して、一緒に補習をうけたりできるのだ!


『踊る道化師』バンザイ!



「これで手札はすべてか? 魔王に邪神。」

「彼」の姿をとった神は、薄く笑った。

「ならば、こちらは次の手札を切ろう。」


「脅しても無理だよ! 進化してない『魔王の卵』なんて、いくつ集まっても簡単に踏み潰して終わりさ。

すべての誇りを踏みにじられるまえに、降参してあらたなる約定を交わすんだね!」


かか。


かかかかかっ!


白い喉をみせて、少年は大笑いした。


おかしくて、たまらないように。


その前に。

フィオリナが降り立つ。


「その姿、どうも気に入らない。」

フィオリナの視線はそれだけで、相手を殺しそうだった。

「見ていると、もやもやするのだ。まるでその姿をしているものが、わたしを責めているような。」


鞘から走る閃光は、まさに電光石火。

なんのためも予備動作もなく。僅かに誤字を捻っただけで、「彼」の胴をないだ。


そのはずだった。


そのわずかな空間に、見たこともない少年がからだを滑り込ませるまでは。


がぎっ!


フィオリナの剣は、リウが与えた魔剣のはず。

鎧はもちろん、並の剣では、剣身ごと両断してしまう。

それが、とまった。



とめたのは、新たに現れた少年の持つ武具。

乳白色に濁った輝きを放つ珠をいくつも並べたような奇怪な盾だった。

それは、盾、なのだろうか。


フィオリナの一撃を食い止めたその機能は、盾、なのかもしれない。

フィオリナの一撃は、表面に埋め込まれた珠の一つをたち割っていた。


「おお、怖い怖い。」

笑顔の愛くるしい少年は、多分「彼」やリウと見かけ上は同い年くらいだろう。

ひげのないつるりとした顔をして、満面に笑みを浮かべていた。

身につけているのは、道化ににた極彩色のだぶだぶの上下。

「魔王ラングリッペの禍珠を損傷させるなんてね。」


盾を突き出すと同時に、珠が弾けた。

その衝撃に、フィオリナは後方に、大きく飛ばされた。



「見事だな、ラングリッペよ。」

世界の声が褒めた。、

「おまえは、ギウリークを治めるがいい。」



フィオリナは、膝をついたまま、魔法を使う。

無詠唱で積み出された光の剣が、「世界の声」に向かった。

それは、「世界の声」に達する前に、反転し、術者のフィオリナに襲いかかった。


フィオリナの剣が数十本に分裂したように動いた。

反転した光の剣はすべて叩き落される。


「魔王ザジさまの愚物反転で、死なねえとはな!」


高笑いしたのは、一回戦を勝ち抜いた冒険者のザジだった。


「だが、これで攻撃の手段はねえ。どんな口撃も俺が反転馳せちまうからな。」


「見事だ、ザジ。」

世界の声が褒めた。

「お主はあの美姫を娶りて、ランゴバルトの王になるがよい。」


「なにをふざけた事を」


抗議しかけだフィオリナを粘液の塊が飲み込んだ。

脱出しようにも、なにも手がかりになるものはない。

ジタバタともがく彼女を、包み込む粘液は、これも見たことのない少年の両手のひらから、分泌したものだった。

彼は、全裸で。

みたこともないほど、白くなめらかな肌をししていた。


「この女はぼくにいただけませんか? 世界の声。」

ほがらかに少年は叫んだ。

「この女の子宮に、ぼくの因子を植え付け、内側からゆっくりと侵食したいのです。」


「そのことは、あとで相談に乗ろう。魔王チエルカ。」

重々しく、「世界の声」は答えた。

「いまはまず、僭王リウを抹殺し、彼に従う愚か者どもを一層してからだ。」



いったい、なにが!


魔王がその究極形態において、ひとの姿をとるだろうことは、予想していた。

だが、そのまえに、り、りゅうの。



「卵どもの指揮をまかせたゲオルグは、実に有能な男だったぞ。」

世界の声は、「彼」の姿で笑う。「彼」の声しゃべる。

ああ。

そんなことで、わたしはこんなにもダメージを受けているのか。

胸が苦しい。


「お、オルガっち!」

「承知。」


短く答えて、立ち上がったオルガのまえに、また違う人物が立ちはだかった。


神を長く伸ばした美丈夫。


「無駄な戦いはやめよ。銀灰の皇帝よ。」

重々しく語るその声は、聞き覚えがあった。


ウゴールさん!?


「お主も、世界の声に帰依するがいい。そして、この世界に永久なる帝国をうち立てよう。」


オルガのデスサイズを一旋は、その体を袈裟懸けに両断したが、ウゴールさんは、平然と笑った。

「命を刈り取るお主の鎌は、とっくに死んだわしから、なにを刈る?」


ルルルぅ!!


だが、そのときには、古竜や壊乱帝の座る一角にも、魔の手が。

いや、神の手、やっばり魔王だから魔の手でいいのか。


壊乱帝のまえに立ったのは、アルゼ姫だった。、


「ここで、謀反か、アルゼ。」

静かに壊乱帝は言った。

「オルガ1人を、始末すれば皇位は転がり込んでくるのに、無体なことをする。」


「反乱を起こしそうな分子を、継承権をチラつかせて、互いに争わせ、自分は高みの見物。」

アルゼは、静かに、しかし、力強く言い返した。

「その醜さは、皇位には相応しくない。よって」


ルルルぅは動かなかった。

古竜にとって、人間の国の継承争いなど興味の対象外なのだ。


壊乱帝のまえに、青く輝くリングが現れる。それは幾重にも幾重にも浮かび上がり、強固な障壁を築く。

それを突破するためには、ひとりの人間の魔力では不可能。

あるいは、多くの人数の参加した儀礼魔法ならば。


バシュッ!


砕け散ったのは、伸ばしたアゼル姫の右手。そして、青いリングの防御壁。それから、回壊乱帝の上半身。


なるほど。

右手に過負荷かけて、自ら破裂させることで、壊乱帝の守りを突破したのか。


ミルドエッジさんが、なにか叫ぼうとした。

その顎を、アルゼ姫の左手が掴んだ。


「いろいろ、弄ってもらってありがとう、老師。あちらでも父上と仲良くね。」


バシュッ!!


アルゼ姫の左手と一緒に、ミルドエッジさんの頭部が粉砕された。


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