第106話 切り札の応酬

「世界の声」は、絶句していた。

ざまあ、である。

そして、本物の「彼」は、絶対にこんな所で噛んだり、絶句したりはしないんだ。


「定められた寿命しかもたぬ卑賤なるの存在は、ぼくに話しかけることを許さない。」


ドロシーは、のどを抑えてよろめいた。

口をパクパクさせるのだが、まったく声が出ていなかった。


「バンティル!」

「心得た!」


わたしの信徒だか、友人(?)だかわからないものは、鮮やかに試合会場に「転移」した。

そのまま、ドロシーに。

え?え、ええーーーっ!


きすうぅ?


はあはあ。

ドロシーは、倒れ込みそうになりながら、バンティルを見上げた。

「助かりました。」


声を止めただけじゃないて、呼吸も止めていたみたいだ。危ないところだった。


「さあ、『世界の声』。卑賤なる人間がどうのこうの話していたけど、相手がわたしななら、問題ないよね?」

「銀灰以外では信仰を得られ小神が。」

世界の声は、彼の声でトトをののしった。

「なるほど! 確かに神としての単純な力関係だったが、あんたが上かも。

いや、あんた“たち”だろうね。『世界の声』さん。

この世の理を司る大神の集合体。だが、その力はここじゃあ、二番目だ。」

「ぼくは、おまえが軽口を言っていい相手じゃないよ、トト。

なら一番はどこにいる。」


トトは、黙って、観客席のわたしを見上げた。


なんだ、このノリは。


わからなままわたしは、自分を親指で差しながら、ニカっと笑って見せた。


「き、きさま‥‥。」

「蔡温月の二日! ルトという坊やを宇宙の果てに放逐したのは、おまえか!」

「し、知らん。ぼくはそのころ、ミトラでアライアス侯爵の晩餐会に主席していたんだ!」


「さあ、て、と。」


わたしはゆっくりと立ち上がった。ふざけた会話だったし、元ネタもよくわからないので、だれもついてきてないと思うが、少なくとも今現在、こいつの中にいるのが、聖光教の名のない神だということがわかった。

「世界の声」が必ずしも一枚岩でないことも。


おまえら。

“踊り道化師”のなかでも内紛があることを、金星をあげたみたいなふうに語ってやがったけど、おまえらだって一緒じゃん。


わたしが、ゆっくりと立ったのは、本当は、膝がガクガクしてたので、あわてて立ち上がったら転ぶキケンがあったんだ。

怖い。

ものすごく怖い。


わたしは、アキルという人間として、この世界に顕在している。ゆえに神さまとしても力はものすごく使いにくい。

いや、相手がおまえらなら。使えるんだけど、まわりの友人たち(と、呼ばせてくれ、みんな!)が、みんな死んでしまう。


ヴァルゴールというのは、確かにやっかいでおっかない神さまなのさ。


「『世界の声』、くだらないマウントの取り合いはいい加減にするんだな。

いずれにせよ、おまえは追い詰められた。おまえが作り上げ『魔王の卵』はこれで一網打尽だ。そしておまえ自身に影響を及ぼせる能力を備えたものも、ここには複数いる。」

リウも試合場に降り立った。

「オレは人間だが、おまえと対峙する資格はないか?」


「そうか。その力で人間を名乗るか、魔王。」

世界の声。

わたしの大好きだった「彼」の姿をとった神は、唇を歪めてそうつぶやいた。

「ならば、けっこう。

ぼくの立てた計画は、多少の誤差など許容してしまう。

ここで、おまえとおまえの仲間を打倒し、その魂を永久煉獄につなぐとしよう。」

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