第206話 不死身の真祖2

全員の視線。

その中には、ロウが改めて指摘するまでもなく、明らかに『あたりまえの人間』の範疇を逸脱したものもいた。

その視線を受け止めて、少年は、少し戸惑ったようだった。


「はじめまして。『栄光の盾トーナメント』にご参加のみなさん。ご挨拶がおくれました。ぼくは、ルウレン・アルフィート。

カザリームについたばかりの魔法士の卵です。」


「その自己紹介は、あまり意味がないな。」

フィオリナが、残忍な笑みを浮かべた。

「おまえの名前をきいたことはないし、カザリームについたばかりなら、宿も決まってないと言えばそれで済む。魔法士見習いなら、魔法士のギルドの発行する身分証明証もないな。つまり、おまえが何者かを証明するものはなにもない。」


フィオリナは、ロウをそのままの冷たい目で、じろっと睨んだので、ロウは肝を冷やした。


「そいつは、うちのパーティのえーっと、アドバイザーだ。」

「いつから。」

「ああーーー」ロウは、視線を泳がせた。ステージでは激しめのショーがはじまったらしい。アップテンポの音楽に様々な色の照明が、天井を照らす。


真祖たる吸血鬼が「肝を冷やす」ことがあるのか、以前にフィオリナに尋ねられたことがある。そのときはごにょごにょと誤魔化してみたが。


「み、三日前。」

「どこで、どんなふうに、知り合った。」


「夜道で絡まれてたんですよ。」

少年があっさりと引き取った。


「ロウが?」

「はい。あいては、どこの街にでもいるチンピラでしたが。ロウさんが泥酔されていまして」


そ、そうだったのか!

はじめて、そこらの経緯を知ったロウは、もちろん知ってたよっ!という顔をしてみせたが、旧知の仲間も混じっている中で、はたしてどこまで誤魔化し切れたものか。


「少年よ。くだらぬ嘘はよくないぞ。酔ったくらいで、ロウがそこいらのチンピラにおくれをとるものか。」

「酔った勢いで、相手を惨殺しそうになっていまして。」

「なるほど、それを止めてくれたわけか。」

「一人で歩けそうになく、住所もわからないので、ほっておけずに宿をとりました。」

「ロウと二人で泊まったのか。」

フィオリナは、笑った。


「そうだ。悪いか。」

偉大なる真祖は、唇を尖らせた。

「彼はわたしのものだ。いずれ、折をみてわたしの『子』にする。わたしのパートナーとして、ともに行動する。」


「好きにすればいい・・・・と言いたいところだが。そうすると『踊る道化師』はどうする?」

「ルトとリウが、Yesと言うなら、彼も『踊る道化師』に加える。嫌と言うなら、わたしは『踊る道化師』を離れる。」


真祖と破壊の女神は、にらみ合った。どちらも一歩も引く気はなかった。

慌てたのは、ほかの者たちである。

今宵は、出場者同士の顔合わせを兼ねた打合せ、のはずだった

闘技者は、戦士でもあるが、必要な役を演じる俳優でもある。


互いに、顔見知りなものも多いが、一方でつい先日まで殺し合いをしていたものもいる。

本気で戦えってもらわなければ、ならないが、これはあくまで試合だ。相手の抹殺だけを目的に殺し合いをされてたのでは、少し違う。

ここで、争いが起きるにしても「言い争い」程度だろうと、予測していた。

こんなところで。

こんなどうでもいい理由で。

本気の戦いが。


「まあまあ。」

と、ルウレン・アルフィートは、おっとりと笑った。

「そのんなことで、ケンカするのは、おかしいです。」


「これは大事なところなんだ。」

ロウは、真剣に言い返した。

「わたしとおまえが、この先も一緒にいられるかどうかという」

「ぼくは、ロウさんと付き合いませんよ。これでも婚約者がいるし」


クリティカルヒットをくらった真祖は、椅子から転げ落ちて、後打ち回った。


「えええええっ!」


不死身の吸血鬼は、それでもすぐさま復活し、ルウレンに食ってかかった。


「ハッキリ付き合おうとは言ってないけどなっ!

普通、一夜を共にして、そのあともこうして、行動を共にしてれば、付き合ってることになるだろうがっ!」


「ロウさんがぶち殺しそこねた、チンピラのゲロと返り血で服がとんでもない事に、なってたんで、洗濯しました。」

ルウレンは、あくまで冷静だ。

「そのあと、一緒にいるのは、ロウさんが今日のこの集まりに、一緒に来てくれと頼まれただけで、付き合う付き合わないは、別問題です。」


顔を赤らめて、黙り込んだロウに代わって、ルウレンは、みなに話しかけた。

「ところで、本当にルウさんは、『栄光の盾トーナメント』の出場で、真祖吸血鬼で、『踊る道化師』の一員なんですか?」


「それが、残念ながら、全部本当なんだ、少年。」

フィオリナが、朗らかに答えた。


「それはなんというか・・・」

ルウレンは、下を向いて、なにやらブツブツと独り言を言い始めたロウの肩を叩いた。

「たいしたものですね。」


へ?

という顔で、ロウは顔を上げた。

「ぼくの学んだ魔法は、主に人に混じって、暮らす魔物を狩ることに特化したもので。」


そんなことを言うからには、少年はいまだに迷信根深い片田舎の出身なのだろう。

西域や中原の大半では、吸血鬼や人狼に対し、差別はあれど、それを見つけ次第に討伐してじうことなど、絶対に許されない。


「いくら人間のフリをしたって、わかる、ものなんですが、ロウさんはぜんぜん分からない。どこからどうみても、普通の人間のお嬢さんにしか見えない。」


「だから、わたしは真祖なんだって!

いろいろ弱点を植え付けられた従属種と一緒にするなっ!」


「ほんとにたいしたものだと、思います。

それもこれも含めて、ロウさんはとっても魅力があります。付き合うわけには、いかないけど、決して、嫌いではないですよ。」


パっと目を輝かせて、ロウが顔を上げた。


「なら、付き合おう! 別にわたしは婚約者がいても気にしないし・・・」


「まあ、この些末な問題はあとまわしにするとして」

「後回しにされたっ!!」

「こちらのパーティからの提案は、いかがでしょう。フィオリナ様のパーティの最後の一人を『まともな人間』から選んでもらう、という提案ですが。」






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