第205話 真祖の企み

「パーティに最低1人は、あまりまえの人間を参加させる・・・?」

『栄光の盾トーナメント』を仕切ることを任された『沈黙』の幹部は、絶句した。


カザリーム新市街を代表する「紳士と淑女の店」リーデルガは、大人の店である。

ウリは、店内に設えられたスペースだ。


時と場合によって、オクタゴン、リング、舞台とその目的を変えるが、たいていは血なまぐさい演し物が多い。

それを見ながら、酒と食事と色にふけるのが、この店の楽しみ方らしい。


なにが、「紳士と淑女の店」だろうか。


とは、ロウは思わない。

人間の欲望には、これまでたっぷりと付き合ってきた。


「正直に言うとだな、せっかく決まったパーティをまたぞろ、弄りたくは無いぞ、真祖殿。」

苦い顔で、黙ってしまった「沈黙」にかわって、発言したのは、出場者の1人である「血の聖者」サノスだった。

魔法学校の講師がよく着るような、ゆったりとしたローブ姿である。


「そもそも、なぜ人間のメンバーを参加させる?」

一緒についてきたアモンが、こちらは面白そうに、ロウを見た。

アモンは、いつもの水着同然の羽田にぴったりした衣装に、ジャケットを羽織っている。


リーデルガに集まったのは、各参加バーティの代表者たちだった。

彼らが集まった一角は、部屋では無いが、可動式の壁と衝立で、ほかの客たちの視線からは、遮られている。


「そもそもうちのメンバーは、全員人間だよ。」

勇者クロノが腕組みをして言った。

そうそう、と頷いたのは、なぜかお供についてきたグランダの冒険者「隠者」ヨウィスだった。灰色のマントにフードを深くおろして、ちんまりと座っている。


「うちだって、そうだよ?」

フィオリナも言った。

「もちろん!」

と、ベータが賛同したが、おまえは違うだろうと、ロウは心の中でつぶやいた。


「確かにかつての勇者バーティ『栄光の盾』の名の争奪戦に、人間が一人もいないというのは、考えものかもしれません。」

そう、発言したのは、ラザリム&ケルト冒険者事務所のラザリムだった。


一応、主催の立場は、「沈黙」に譲ったものの、ガッチリと利益は確保する気は満々であった。

今日の集まりも、応募した四バーティを見て、皆がしり込みしすぎて、集まりが悪くなり、このままもう少し様子を見るか、それとも、四パーティだけで開催するか、いやいやならばトーナメントは辞めて、総当たり戦にするかなどの相談をする為に、集まったはずだった。


それが、冒頭のロウの発言で、ペースを崩された。


「真祖さまのご意向はわかりますが、それならば今の時点で、各パーティもともに条件を満たしているのでは?」


「そうだな。わたしたちのバーティにはおまえとケネルがいるからな。」


ロウは、ビシッとクロノを指さした。

「クロノんとこは、おまえ自身がそもそも転生だろうがなんだろうが、紛れもなく人間だ。」

続いて、サノスを指さす。

「おまえのところは、おまえ自身はちょっと、人間に含めていいのか、怪しい。

ザックは、正体がアレだから、完全にアウト、アモンとバークレイも自分が、竜人だと主張してるのだからアウト。かろうじて、ドゥルノ・アゴン。与えられた力から開放されているから、彼は、もはやただの人間に過ぎない。」


「何を言いたい?」

さすがに、イラッとしたような口調でフィオリナが言った。

「それなら、なにも問題ないわけだろ?」


「問題は『まともな人間』の定義にある。

例えば、いまわたしは、『まともな人間』から、吸血鬼や竜人を除外していたが、その事には特に、異論はなかったようだ。」


ロウは、ゆっくりと立ち上がり、部屋の中を歩き出した。


「ならば、こんなふうに考えることは出来ないだろうか。『踊る道化師』を『まともな人間』の範疇に入れて、本当にいいのか? と。」


「わたしや、ドロシーが人間でないと!?」

フィオリナもこれには、堪らず立ち上がった。


「『踊る道化師』に所属している以上、それは『まともな人間』の範疇からは、外れる、という事だな。わたしやアモンが『まともな人間』ではないように、だな。」


内心、ロウはヒヤヒヤものだ。ここで血の雨を降らせてしまったら、元も子もない。


つい。

と、手が上がった。


ロウが、連れてきていた見知らぬ少年のものだった。


「話が長くなってすいません。」


誰一人、知る者のない少年だった。

ロウが、適当なタイミングで紹介するのだろうと、皆が思っていたが、そんな機会もないロウが訳の分からぬことを言い出したので、放ったらかしになっていたのだ。


「つまり、ロウさんはこう言いたいのだと思います。

フィオリナ姫のパーティだけが、まともな人間のメンバーが、ひとりもいない。

もう、1人、メンバーを加える際には『まともな人間』を、選ぶべきではないか、と。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る