第70話 小規模な日常
どうもカザリームの学校は、登校日数というのが、成績の重要な採点基準になるらしい。
それは、文字通りの「登校」であって、別に授業に出席するかどうかは、別問題なのだ。
そんなわけで、「荷造りのために一度、帰る」というベータと別れて、ドロシーは、一応、学校に向かった。
なぜか、マーベルも着いてきた。
ひとりで、留守番も退屈なので、とマーベルは言うのだが、じゃあおまえは、迷宮内でどうやって過ごしてたんだよっ!と、強めにききたくもなるドロシーである。
高校の受付で自分も通いたいと、ダダをコネだしたマーペルをなだめすかしていると、リウたちが現れた。
同じクラスのもの達に囲まれている。
「これから、ほんと迷宮にいくのか。」
ひとりがあこがれるように、リウを眺めて、そう言った。
「まあ、そうだな。生活費も稼がねばならないだろうしさ。」
「す。すげえあ。」
クラスメイトは、頬を赤らめて口早に続けた。
「俺の親父は、もと冒険者なんだ。いまは歳もいっちまったんで、事務所の経営に回っちまったけど。
俺も冒険者になりたいんだけど、止められてさ。」
「ようっ、ドロシー!」
それには答えずに、リウはドロシーに向かって手を振ってみせた。」
「稼げそうな迷宮はあったか?」
どちらかと言えば、クラスでは目立たないほうだったドロシーは、みなの視線が集まるだけで、ドギマギする。
「ひとつ、ありましたが、受注してクエストを達成しました。」
「よし、晩飯前に片付けるか・・・え? 終わった?」
さすがに、怪訝な顔のリウに、ドロシーは続ける。
「はい、幻影宮の迷宮主から秘宝の真玉を奪取するというクエストですが、終了いたしました。」
ドロシーは、隣のマーベルの肩に手を置いた。
「迷宮主のマーベルさんです。」
「ど、どうも」
と、おどおどとマーベルは、リウの級友たちに挨拶した。
「ご紹介に預かりました『幻影宮』の主、マーベルです。空間をちょこっといじったり、召喚獣を呼んだり、あと、アンデッドを作って操ることも得意です。」
もちろん。
リウの級友たちは、それを冗談だと思ったのだ。
「すごいじゃないか、ヘイカ!」
級友の一人が、リウの胸を小突いた。
「ミトラで大暴れした『踊る道化師』って、パーティメンバーに迷宮主までいるのかよ!」
「そうだ。だが驚くのは、早いぞ、ジール。ほかにも階層主の真祖吸血鬼や神獣や神龍がいるんだからな。」
「そんなすごいメンツを揃えたら、神様から目をつけられないか? その方が、俺は心配になるね。」
「大丈夫だ。メンバーには神様もいるからな。」
全員がどっと笑った。
クラスメイトたちはまだ話したそうだった。
(特に女性とはそうだ。)
だがリウは、これから、打ち合わせなんだ。また明日な。
と言って、一向と別れた。
「フィオリナは?」
と歩きながら、リウが、訪ねた。ドロシーは、目を逸らしながら
「ベータですか?
荷物をとりに帰るそうです。」
と、答えた。
「わたしたちは、事務所からの依頼を達成したので、その報奨金の手続きをしに、一度、ラザリム=ケルト事務所に向かいます。同行願えますか?」
「それはいいんだが。」
リウは、首を傾げた。
「依頼の内容は、『幻影宮』を攻略して、そこの迷宮主である魔導師マーベルから、魔法球を奪取しろ・・・・だろ? オレたちは全く攻略してないぞ。なんだったら『幻影宮』に足を踏み入れてもいない。」
「リウ?」
ドロシーは、リウの額に手を当てた。
「なんだ?」
「いや、リウくんがまともなことを言うので、熱でもあるのかと。」
んなわけがあるか。オレは風邪をひいたこともないんだ!と力説するリウに、そういえば俺も風邪って引かんなあ、とクロウドが同調した。はいはい、なんとかは風邪ひかないって言うしね。馬鹿と魔王だっけ?
「それを言うなら、わたしたちはちゃんと『幻影宮』に足を踏み入れてます。」
と、学校まえのペデストリアンデッキを歩きながら、ドロシーは言った。
「わたしたちのコンドミニアムそのものが、『幻影宮』の一部です。さらにいえば、ちゃんと迷宮主とも戦ってますね。」
「戦たっけ?」
と、疑問を呈したのは、マーベルだった。
「戦った。マーベルさんが召喚した黒犬に自分が食いつかれたあと、自分が撃った闇槍に、自分が当たって」
「あれは戦いではない。」
敬愛する王を、うっかり口撃してしまいそうになつたマーベルは口早に言った。
「古の魔族は、挨拶がわりにちょこっと口撃魔法の応酬をする伝統があるのだ。」
「あるかっ!」
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