第68話 大宴会とひとつの問題解決
では。
と、エミリアの乾杯の音頭で始まった宴会は、すぐに皆が皆、勝手気ままに盛り上がるというある意味理想的な、ある意味収拾のつかないものになった。
「変わらないんだなあ。」
と、リウは、マーベルから酒を注いでもらいながら、しみじみと言った。
マーベルは、恐れ多くも、とかなんとか口の中で、モニョモニョと言いながら、千年ぶりにあった自分の主を見上げた。
若い。
まだ、10代の半ばと言ったところだろうか。
そんな少年時代のリウを、マーベルは覚えていなかった。彼女は、今の銀灰皇国のある辺り、西域でも辺境と呼ばれる地域の出身者で、リウの陣営に加わったのは、魔族が本格的に、西域に侵攻を始めてからになる。
「変わりませんか?」
「変わらんなあ。相変わらず、小心者で、真面目。指示したこと、約束ごとは律儀に守る。」
褒められているのか、貶されているのかよくわからなかった。
「あのマーベルさん。」
と、隣に座る細面の品のある女性が、話しかけてきた。リウは、多分16、7くらいの恐ろしいほどに美しい少女を、恋人のように扱っていたが、彼女は、今、格闘家らしい青年と、飲み比べを始めてしまっている。
代わりに、リウのパートナー、あるいは副官のような立場で、横に座っているのが、このドロシーと言う女性だった。
「ここを、迷宮と一体化させている、とのことですが。」
「その通り。」
敬語を使った方がいいのかな。
小心者のマーベルは、恐る恐るそう答えた。
仕えたのが少々、古くてもいま現在、リウに側近として使えているのは、この女だ。
間違っても古参だからと言って、いばった態度をとってはならない。
「正確には、わたしの迷宮の一階層として、ここを設定している。
なので、勝手に魔物が迷い込んだり、衣装棚を開けたら、ミミックだった・・・などということはない。」
「それは、心配しておりません。
つまり、ここから、階層を経る形で、迷宮に移動が可能、ということですね?」
「それは、可能だ。しかし・・・・」
マーベルは、面くらったように、ドロシーを見つめた。
「わたしの迷宮には、大して価値のあるものはないぞ。迷宮を掌握した後は、やたらに冒険者に目をつけられないように、迷宮を『枯らして』しまったからな。」
「冒険者の侵入の方が厄介かもしれませんね。」
ドロシーは考え込むように言った。
「冒険者にしてみれば、迷宮を探索中に、気がついたら、人の家に入り込んでしまったのですから。関係ないと言い逃れようにも、迷宮主に魔王まで揃っている。」
ドロシーの口元の笑みを浮かべるまで、マーベルは彼女が冗談を言っていることに気が付かなかった。
「まあ、でもその場合は、カザリークの法律が味方してくれそうですけどね。他人の家に断りなしに侵入したわけですから。」
「まあ、そういうことになるかな。」
おろそしく頭のいい女だ。マーベルは舌を巻いている。言ってることはわかるのだが、果たして何がしたいのかが、さっぱりわからぬ。
「仮にですが、任意の迷宮に入口を作ることは可能ですか?」
「できる・・と思う。もっとも浅い階層になるが。」
マーベルはキョトンとした。
「しかし、一体なんの意味が。」
リウは腕輪を見せた。
「転移封じの腕輪だ。これのせいでオレは、転移ができない。ところが、カザリームの迷宮は、最初の侵入に転移陣を使うものが大半だ。」
「と、とんでもない神話級のアイテムを平然と身につけますね。」
マーベルは、息を呑んだ。リウの腕に輝く腕輪を飛び出しそうな目で、見つめる。
「でもそれって、外したら、いいだけでは?」
「それが、いろいろと事情があって、外せないのだ。もし、転移なしに迷宮に入れるならば、冒険者稼業が大いに捗る。協力してもらえるか、マーベル。」
「そ、そ、それは、ご命令とあらば!」
マーベルとしてはそう答えるしかない。
なぜ、魔王バズス=リウが、冒険者をやっているのか。
そもそも、魔王宮はどうなって、どうしてそこから出てきたのか。
なぜ、少年の姿をしているのか。
「踊る道化師」とかいうパーティは一体なんなのか。
聞きたいことは山ほどあるのだが、ゴツい体格の格闘士が、肩を組んできた。一緒に、ランゴバルド冒険者学校の校歌を歌おうと言う。いや知らんし、そんなもの。
さっき、魔王のいい人だと紹介された美女も、反対側から手を引っ張って、クラード高校の校歌を歌うんだと、息巻いている。
どっちも知らない。
困惑するマーベルだが、残り全員も困惑し切っていた。
ランゴバルド冒険者学校にも、クラード高校にもそもそも「校歌」なんかないのだ!
酔った勢いで、歌おうと言い出した結果、クロウドもフィオリナ(β)も引っ込みがつかなくなっている。
「え、ええっと・・・」
少しでも相手より先に歌い出して、ペースを握ろうとする、クロウドとベータの駆け引きが続く。歌など。しかも校歌っぽい歌なんて即興で作れるものではないのだ。
しかし!
無茶を通すのが、フィオリナである!(コピーした魔道人形だけど)
「む、群雲踊る西の空!」
そのいい加減な歌詞に触発されたのか、クロウドもう歌った。というかうめいた。
「竜は東に飛んでいく。」
「豪剣一閃、闇を裂き」
「剛拳一撃、大地割る。」
校歌というか、活劇のサブタイトルというか。
た、助けてっ!!
上古の魔導師の心の悲鳴を無視して、創作歌合戦はしばらく続いたのだ。
翌朝、まともに起きてきたのは、ドロシー1人だった。
マーベルが部屋を「迷宮化」していて、本当に良かった。
いくら防音設備があったにせよ、コンドミニアムでこんな大騒ぎをしたら普通ならば苦情は必死であっただろう。
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