第38話 準決勝、始まる

会場は整地され、負傷者は病院へと運ばれた。

実際のところ、病院送りとなったのは、勝者チームの2人を除いた全員である。

剣と魔法を使う戦いというものは、そういうものなのだ。

死者がでなかったのが、儲けものである。


アナウンスが流れて、次の試合がはじまった。


「踊る道化師・術」と「踊る道化師・銀」は、たぷん。

多分なんだけど、「ルト」と「ドロシー」をリーダーにしたパーティだった。

この「ルト」は優男でやたらにカッコつけて、前髪をかきあげながら、「魔道の真髄が」「我が究極魔法」とか、短い戦いの間に七回はそろセリフをきいた。


一方の「ドロシー」は、やたらに露出の高いコスチュームのうえから銀色のマントを羽織った魔導師の女で、こちらも「我が禁忌の技」というのが口癖で、ともに似ても似つかない者同士が、わけのわからない部下を引き連れて(どちらも人数は10人以上いた)レベルの低い戦いを長々とやってくれたのだが、観客はずいぶんと盛り上がっていた。


この方がわかりやすいのだ。

派手に魔法が飛び交い、剣と盾が打ち鳴らされるこの手の戦いが。


最後は、双方のパーティが倒れたあと、魔力を使い果たした「ドロシー」と「ルト」の一騎打ち。

「ドロシー」がふるうムチが「ルト」を叩きのめし、血まみれになって、命乞いをする「ルト」を「ドロシー」が踏んずけて、勝ち名乗りを上げるという、構図で幕を閉じたが。


「これは、むこうのブロックはだいぶ得してるわね。」

と、イシュトは呟いた。


「どういうことだ?」

と、三杯目のコーヒーを飲みながら、リウが聞き返す。

「魔力枯渇、体力も限界、傷だらけのあの状態では、次の試合は、でてもボロボロよ。『踊る道化師・銀』は、恐らく棄権するでしょう。」

「なるほど。次の試合の勝者はラクができるな。」

「それはもう、『踊る道化師・剣』の不戦勝が決まってるわ。『踊る道化師・闇』が棄権を申し出たの。」


「1戦もせずに、決勝か。」

それはいくらなんでも、と、リウは顔をしかめた。

「『ロウもどき』のやつらも棄権してくれないもなかな。」

「吸血鬼と魔導師以外は、ただの人数あわせよ、あそこは。」

と、イシュトは答えた。

「あの二人が健在である以上、必ず出てくる。」


「なにか目的があるのか?」

「話さなかったっけ?

もともと、このトーナメントはあの二人の存在をピーアールするために企画されたの。そうやって、偽物が名を売れば、本物がコンタクトしてきてくれるかもしれないでしょ?」


ああ、なるほど。

なら、そっちから話してみるのも一興か。

と、リウは思った。なんの目的で「踊る道化師」と接触したがっているのかは分からないが、その望みは次の試合で叶うのだ。


「その不戦勝続きで決勝にあがってくる『踊る道化師・剣』はどんなパーティなんだ?」

むしろ、興味は決勝戦のほうに、わいてきた。


「わたしたちもよくわかってないの。」と、イシュトは答えた。

「もともとは『踊る道化師・魔』というパーティが出場予定だったのを、アシッド様が、ねじ込んできたパーティよ。まあ、たった一人で、『踊る道化師・魔』」を打ち破って出場権を得たのだから、文句は言えないけどね。」


「ひとり、だと?」

「そう、マントとマスクで風貌は分からないけど、女剣士ひとりのソロパーティよ。だから『フィオリナ』を模したものだと、思うのだけれど。

わたし自身は、見ていないのだけれど、所長、あ、この言い方はわかりにくわね、ギルドマスターが立ち会ってるわ。

本当に、大人と子ども。あなたが、店で三人をまとめて吹き飛ばしたようなくらいに、圧倒的だったそうよ。」


フィオリナ。

フィオリナ。

フィオリナ。

その名を繰り返すたびに、リウの胸の奥が痛む。甘い痺れをともなった痛みだ。


生まれて初めて、リウは恋をしているのかもしれない。

彼女は今、どうしているだろう。

ランゴバルドで、別れた時は、涙も見せずに手を振っていたが。


「『踊る道化師・魔王』。準備はよろしいですか?

準決勝です。」


立ち上がりながら、リウはろくでもない妄想に囚われていた。

まさか。

本物のフィオリナが、彼を追ってカザリームにやって来たのでは。

確かに彼らの方が先に出立はしているが、フィオリナは彼と違って、転移魔法を封じているわけではないのだ。


その考えがぐるぐると頭をめぐり、その事だけを考えながら、会場に足を進めた。

「はじめ!」

の声も耳に入らず。


試合が始まったのに気がついたときには、シャクヤの大剣が右袈裟に、彼の体を切り裂いていた。

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