第2話 道化師が多すぎる!

パーティを待たせている港にほど近い食堂と宿屋を兼ねた店までは、途中、機械馬の馬車を使って約1時間。

リウとしても、いささか疲労を感じないわけではない。

しかも、交渉は不調だった。


エミリアかドロシーを一緒に連れていくべきだったか。

そう、確かに最初はそのつもりだった。二人がひどい船酔いで、なければ。


「おかえりっ!ヘイカっ!」

逞しい筋肉に覆われた巨漢クロウドが立ち上がる。どういうわけか、この航海での船酔いは女性のほうに酷く出ていた。

ドロシーとエミリアは、店の奥のカウチを借りて、まだ横になっていた。


ファイユはだいぶマシで、ドロシーたちに冷たい水を持っていったり、気付けの薬を煎じたりと、甲斐甲斐しく働いていた。

「どうだった、ヘイカ。」

そう言ったはマシュー。わりと特徴のないのが特徴のような貴族の元御曹司は、オレンジ色の酒を一杯やっていた。


婚約者が寝込んでるんだから、心配くらいしろよ!と思いながら、リウはその正面に腰を下ろした。

「あ、ああ」

エミリアどドロシーも体を起こす。


「おかえりなさい、リウ。」

「おかえり。」


多少は顔色も良くなったようだった。

なにか食べられるかきいてやると、粥なら、とドロシーは答えた。

ここの名物らしい煮凝りののった粥を頼んでやりながら、エミリアには、骨付き肉のローストを勝手に頼む。

「はいりませんよ! リウ。」

エミリアは抗議したが、リウは無視した。


「で、どうでした、ヘイカ。」

グロウドが、リウが腰を下ろすのも待ちきれないような口調で尋ねた。

「ダメだった。」

「よっしゃあああぁって、


え?

ダメ?」

クロウドほどの間抜けっぷりではないが、全員が驚いている。


「冒険者ギルドにパーティ登録をしてもらって、宿を紹介してもらい、下見と交渉を行う。」

ドロシーが淡々と言った。

まだ気分がすぐれないのか、冷たい水で絞った手ぬぐいを額に押し当てていた。

「全部こなせるとは思いませんでしたが、まさかひとつも出来ないとは!」

「話をきけっ!」

リウは言い返した。

ドロシーは、いつも優しいイメージがあったのだが、彼には当たりがどうもキツい。

「パーティ登録を断られたんだ。」

「きっと、あなたが、『クあっはっはっ、古の大魔王が冒険者登録にきてやったぞっ! 一堂、ひれ伏して拝み奉るがいい!』ってやったからですね?」


「ドロシー、おまえの中でオレはどんなキャラなんだ?」

「と言うのは、冗談ですが。」


なんだ、冗談なのか、とクロウドが呟いた。

リウは憤然とした。コイツらはオレをなんだと思ってるんだ。

「それで、胸の大きな受付嬢は口説けたんですか?」

「それは違う!」

「そうですか、胸はそんなでもなかったんですね。せっかくの浮気の浮気のチャンスなんで残念姫とは別のタイプを選ぶかと思いましたが。」

彼女の作るアイスニードルのように、ドロシーの舌鋒は容赦ない。

「洞窟で付き合ってたラスティといい、あなたが自らスカウトしたエミリアといい・・・こういうタイプの胸がお好みなのですね。

ファイユ、気をつけてね!

わたしも充分、注意するから。」


話をきいてくれぇえっ!

リウは叫んだが、ドロシーはにっこりと、笑った。

「もちろん、全部冗談ですよ、リウ。」


まあ。

これはこれだ悪くない。

リウは会話を楽しんでいる自分に驚いている。

仲間とは、パーティの仲間とはこのようなものか。


「『踊る道化師』の偽物が出回っているらしい。それも大量に。」


そう、リウが告げるとドロシーは、難しい顔をした。

「確かに・・・評判だけ伝わって実体は今ひとつわからない状態でしょうけど。」

「カザリームでも真偽の判断がつかない為に、『踊る道化師』を名乗るパーティは無条件で受け入れ拒否ということらしい。」


偽物が現れるなんて、すごいじゃないか?

と、マシューが呑気なことを言った。

「まあ、話題になりやすいし、そこまで有名じゃないので、実際に会ったりしたものは皆無だから、パレにくい。ちょうどいい感じに話題になったみたいね。」

と、エミリアが言った。


見かけ上の年齢では、一番幼く見える。

恋愛対象にはふつうならないような、可憐な美少女なのだが、実際の歳はわからない。


「で? どうするつもりなんですか、リウ?」

ドロシーは、お粥をひとくち、すすった。うん、美味しい、とつぶやいて、自分の体調が回復しているのに安心したように、もう一口、飲み込んだ。

なにしろ、彼女は、なみの人間なのである。驚異的な回復力をもつ、エミリアはもちろん、単純な体力だけならマシューにも劣るだろう。

「もう一度、船に乗ってランゴバルド冒険者学校に戻りますか? 愛しい残念姫がきっと、待っていてくれますよ。」

下着もはかずに。

と、ドロシーは付け加えた。


「まだ、路銀はある。」

はなはだ心もとないことを、リウは言った。

「もともと、ここで稼いだ金は一部、ランゴバルドに送る約束です。もし、仕送りをしてもらうようになったら、本末転倒です。」

なおもドロシーは、リウをいじめる。

「諦めましょう。諦めて、ルトとフィオリナが待ってるランゴバルドに帰りましょうよ。」


「それが、乳のでかい受付嬢が、なにか提案をしてくれるらしいんだ。

行ってみるか。」



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